関連当事者に対して不動産の建設を依頼している場合の開示例

Question
関連当事者に対して不動産の建設を依頼している場合、関連当事者との取引の開示は具体的にどのように記載すればよいでしょうか?
【Answer】
会社が関連当事者に対して不動産の建設を依頼しており、その不動産建設依頼取引に重要性がある場合は、『関連当事者との取引の開示』が必要になります。 (関連当事者の開示に関する会計基準第2・6項
関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針第12項)
関連当事者との取引に重要性があるかの判定基準は、関連当事者が法人であるか個人であるかにより異なります。

会計基準では、『関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針第13項』で定める関連当事者のグループに基づいて、関連当事者を下記のように法人と個人に分類定義しています。
【関連当事者との取引の開示の重要性の判断基準における法人/個人の分類】

 ■法人グループ
 グループ1:親会社及び法人主要株主等
 ⇒全て

 グループ2:関連会社等
 ⇒全て

 グループ3:兄弟会社等
 ⇒全て

 グループ4:役員及び個人主要株主等
 ⇒会社の役員(親会社・子会社の役員を含む)
  若しくはその近親者が他の法人(その者が
  議決権の過半数を所有してい
  る法人を除
  く)の代表者を兼務し、その法人の代表者
  として会社と取引を行う場合のみ法人
  グループに分類

 ■個人グループ
 グループ4:役員及び個人主要株主等
 ⇒上記法人グループに該当する者以外
(関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針第14・16・33項)
重要性の判定は、原則として関連当事者との各取引ごとに行います。

不動産建設依頼取引の場合であれば、例えば、不動産建設依頼金額に重要性がないと判定された場合であっても、着工前に支払った頭金の金額等に重要性がある場合は、その不動産建設依頼取引自体が開示の対象となります。

その結果、単体では重要性がない不動産建設依頼金額も含めて、開示が必要になります。

ただし、類似・反復取引については、その合計金額で判定します。
【関連当事者との取引の開示における重要性の判定の単位】

 原則:取引ごとに判定
 例外:類似・反復取はその合計金額で判定
(関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針第14項)
また、重要性の判断基準の適用にあたっては、これまで開示対象となっていた取引が、ある年度に数値基準を下回っても、それが一時的であると判断されるような場合には、ただちに開示対象から除外するなどの画一的な取扱いをせず、開示の継続性が保たれるよう留意する必要があります。
【重要性の判定と開示の継続性についての留意点】

 それまで開示対象であった取引が、重要性
 の基準値を下回った場合

 ⇒それが一過性のものかを考慮したうえで
  開示を継続するか判断
(関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針第20項)
不動産建設依頼取引の相手である関連当事者が法人グループに該当する場合、一般的には下記のように取引の重要性を判断します。
【関連当事者が法人である場合の不動産建設依頼取引の重要性の基準値】

~PLに関する取引~

①売上高、売上原価、販売費及び一般管理費
 に属する科目に係るもの

 売上高又は売上原価と販売費及び一般管理
 費の合計額の10%超の取引


②営業外収益、営業外費用に属する科目に係
 るもの

 下記の両方を満たす損益に係る取引
 ■営業外収益又は営業外費用の合計額の
  10%超

 ■税金等調整前当期純損益の10%超、
  又は、最近5年平均税金等調整前当期純
  損益の10%超

  ※最近5年で税金等調整前当期純損失年度
   がある場合は、その年度以外の平均を
   使用


③特別利益、特別損失に属する科目に係る
 もの

 下記の両方を満たす損益に係る取引
 ■1,000万円超

 ■税金等調整前当期純損益の10%超、
  又は、最近5年平均税金等調整前当期純
  損益の10%超

  ※最近5年で税金等調整前当期純損失年度
   がある場合は、その年度以外の平均を
   使用


~BSに関する取引~

④有形固定資産の購入取引
 取引の発生総額、又は、残高が総資産の1%
 を超える取引

 ※取引が反復的に行われている場合や、
  発生総額の把握が困難である場合は期中
  の平均残高で判定可

⑤上記以外の貸借対照表項目に属する科目の
 残高及びその注記事項に係る取引

 その金額が総資産の 1%を超える取引
(関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針第15・29項
関連当事者の開示に関する会計基準の公開草案に対するコメントの公表『適用指針案15項及び16項』)
また、不動産建設依頼取引の相手である関連当事者が個人グループに該当する場合、PL/BSに係る取引ともに、1,000万円超の取引が関連当社との取引の開示対象となります。
【関連当事者が個人である場合の不動産購入取引の重要性の基準値】

PL又はBSに係る項目が1,000万円超の取引
(関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針第16・31・32項
関連当事者の開示に関する会計基準の公開草案に対するコメントの公表『適用指針案16項前段、30項及び31項』)
上記の判定基準により、重要性があると判断された関連当事者からの不動産建設依頼取引については、下記の項目を開示します。
【関連当事者との不動産建設依頼取引に関する開示事項】

①関連当事者の概要
 【法人の場合】
  ・名称
  ・所在地
  ・資本金(出資金)
  ・事業の内容
  ・関連当事者の議決権に対する会社の所
   有割合又は財務書類作成会社の議決権
   に対する関連当事者の所有割合

 【個人の場合】
  ・氏名
  ・職業
  ・財務書類作成会社の議決権に対する
   関連当事者の所有割合


②会社と関連当事者との関係
  ・製品の販売・購入、資金援助等の取引
   関係、役員の兼務等の関係を記載

   ※特記すべき関係がない場合は
    『なし』と記載


③取引の内容
  ・不動産の建設
  ・その他

   ※形式的/名目的に第三者との取引であ
    るの場合は、下記1・2についても
    要記載
     1,形式上の取引先名
     2,実質的には関連当事者との取引で
      ある旨


④取引の種類ごとの取引金額
  ・不動産建築依頼価額
  ・その他

   ※営業外損益・特別損益に関連する取
    引で取引総額と損益が相違する
    場合、取引損益も記載


⑤取引条件及び取引条件の決定方針
  ・依頼価額等の取引条件及びその
   決定方針
  ・その他

 ※競争的で自由な取引市場が存在しない場
  合で、関連当事者との取引が独立第三者
  間取引と同様の一般的な
  取引条件で行わ
  れた旨を記載する際は、関連当事者以外
  の第三者との取引と比較して同等の取引
  条件であること
  を要記載


⑥取引により発生した債権債務に係る主な科
 目別の期末残高
  ・前払金
  ・その他


⑦取引条件の変更があった場合は、その旨、
 変更内容及び当該変更が財務書類に与えて
 いる影響の内容
(関連当事者の開示に関する会計基準第10・35項
関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針第7・8項)
上記の内容を具体的な開示例として表現すると、下記のようになります。(参考:関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針参考(開示例)1)
【開示例】
種類 会社等の名称 所在地 資本金
又は
出資金
(百万円)
事業の内容
又は職業
議決権等の所有(被所有)割合 関連当事者との関係 取引の内容 取引金額
(百万円)
科目 期末残高
(百万円)
役員及びその近親者が議決権の過半数を所有している会社
(当該会社の子会社を含む)
P社
(注9)
東京都
港区
5,000 建設業 なし なし 光工場の
建物の建設
(注10)
500 その他の
流動負債
300










上記の金額のうち、取引金額には消費税等が含まれておらず、期末残高には消費税等が含まれている。
取引条件及び取引条件の決定方針等
(注9)当社役員中村三郎が議決権の51%を直接保有している。
(注10)数社からの見積りを勘案して発注先と価格を決定しており、支払条件
   は第三者との取引条件と比較して同等である。
次のページでは、関連当事者との間で技術援助契約を締結している場合の開示例をご紹介します。