所有権移転外ファイナンス・リース取引で利息相当額の総額をリース期間中にわたり
定額で配分する方法を採用していたが、重要性が乏しいと認められなくなった場合の
取り扱い(借手・全リース取引を原則法に修正するケース)

Question
所有権移転外ファイナンス・リース取引の借手で、リース取引に重要性が無いと判定されたため、リース料に含まれる利息相当額をリース期間にわたり定額で配分する簡便的な会計処理を採用していましたが、新規のリース取引を開始したことで、リース資産総額に重要性が乏しいと認められなくなりました。このような場合、具体的な会計処理はどのようにしたらよいでしょうか?
【Answer】
ファイナンス・リース取引の借手において、リース資産及びリース債務の計上額を算定するにあたっては、原則として、リース総額から利息相当額の合理的な見積額を控除します。控除した利息相当額は、リース期間にわたり利息法により各期に配分します。
所有権移転外ファイナンス・リース取引では、リース資産総額に重要性が乏しいと認められる場合は、リース料総額から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法、又は、利息相当額の各期への配分を定額法による方法の、2種類の簡便的な方法により利息相当額を取り扱うことが出来るとされています。(リース取引に関する会計基準の適用指針31・106・107・108・116項)
当該簡便的な方法で会計処理をしていた会社において、新規リース取引の開始などにより、リース取引の重要性の判断基準を満たさなくなった場合、以降の会計処理は原則法により行わなければなりません。

その際に、簡便法を適用していた既存のリース取引の取り扱いについては、そのまま簡便法を適用し続ける方法と、新規のリース取引とともに過去に遡て原則法に修正する方法の2つから選択することができます。(リース取引に関する会計基準の適用指針【設例5】)
以下では、具体例を使用して利息相当額の各期への配分を定額法による方法で行っていた借手が、リース取引の重要性の判断基準を満たさなくなったため、既存のリース取引も含めて全てのリース取引の会計処理を原則法に修正する場合の会計処理をご紹介します。(参考:リース取引に関する会計基準の適用指針【設例5-1】)
前提条件
B社は物件Xを下記の条件でA社からリースする契約を締結しました。
・所有権移転条項無し
・割安購入選択権無し
・リース物件は特別仕様ではない
・解約不能リース期間3年
・借手の見積り現金購入価額は25,000千円
・貸手のリース物件の購入価額は貸手において明らか
 ではない
・リース料年額10,000千円(支払は1年ごとに後払),
 リース料総額30,000千円
・リース物件の経済的耐用年数5年
・借手の減価償却方法は定額法
・借手の追加借入利子率は年8%
・借手は貸手の計算利子率を知り得ない
・当該リース取引についてはA社において重要性が無いと
 判定され、
 利息相当額を定額で各期に配分する方法により
 会計処理を行う
・リース取引開始日はX1年4月1日
・B社の決算日は3月31日
【現在価値基準による判定】
リース料総額の現在価値
10,000千円÷(1+0.08)+10,000千円÷(1+0.08)^2+10,000千円÷(1+0.08)^3=25,771円

リース料総額の割引現在価値25,771千円÷現金販売価額25,000千円=103%≧90%

【経済的耐用年数基準による判定】
リース期間3年÷経済的耐用年数5年=60%<75%

【リース取引の判定結果】
解約不能条件有のため、ノンキャンセラブルの要件を満たします。

経済的耐用年数基準では75%に満たないため要件を満たしませんが、現在価値基準が90%のためフルペイアウトの要件を満たします。

所有権移転条件、割安購入権なく、リース物件は特別仕様ではないため所有権移転外に該当します。

上記の判定結果により、当リース取引は所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当すると判定されます。
【B社の会計処理】
① X1年4月1日(リース取引開始日)
借方 貸方
リース資産 25,000千円※1 リース債務 25,000千円※1
※1物件XのB社における見積現金購入価額
リース資産・リース債務の計上額の決定方法は、原則法と同様です。B社は貸手であるA社での物件Xの購入価額を知り得ないため、B社での見積現金購入価額25,000千円とリース総額の割引現在価値25,771千円の内、小さいほうである見積現金購入価額25,000千円でリース資産とリース債務を計上します。
② X2年3月31日(第1回リース料支払日)
借方 貸方
リース債務 8,333千円※4
支払利息 1,667千円※3
現金預金 10,000千円※2
※2支払いリース料
※3(支払リース料総額30,000千円-リース資産・負債計上額
  25,000千円)÷3年
※4支払リース料10,000千円-利息相当額1,667千円
支払ったリース料の内、利息相当額を支払利息として費用計上し、残確を返済分としてリース債務残高をマイナスします。利息相当額を計算する際は、支払リース料総額とリース資産・リース債務計上額の差額をリース期間で均等に配分するように当期の利息相当額を計算します。
③ X2年3月31日(決算日)
借方 貸方
減価償却費 8,333千円※5 減価償却累計額 8,333千円※5
※5リース資産計上額25,000千円÷解約不能リース期間3年
リース資産の減価償却費を計上します。所有権移転外ファイナンス・リース取引であるため、残存価格はゼロとし、物件Xの経済的耐用年数の5年ではなく解約不能リース期間の3年で償却を行います。

 
追加前提条件
・B社はX2年4月1日にさらにもう一台分の物件Xの同条件の
 リース取引を開始しました。
・その結果、未経過リース料の期末残高が、当該未経過リー
 ス料の期末残高と有形固定資産および
 無形固定資産の期末
 残高の合計額に占める割合が10%超となり、リース取引の
 重要性の判断基準を
 満たさなくなりました。
・そのため、B社は当期より全てのリース取引に対して
 原則法である利息法を適用することと
 しました。
④ X2年4月1日(新リース取引開始日)
借方 貸方
リース資産 25,000千円※1
特別損失 758千円※6
リース債務 25,000千円※1
※1物件XのB社における見積もり現金購入額
※6既存リース取引の取引開始時リース債務計上額25,000千円
  ×計算利子率9.7%-計上済利息相当累計額1,667千円
  計算利子率は下記の計算で算定で算定
  10,000千円÷(1+r)+10,000千円÷(1+r)^2+10,000千円
  ÷(1+r)^3=25,000千円
  r=9.70%
新リース取引の開始日には、新リースに係るリース資産・リース債務を、既存リース取引と同じくリース資産の割引現在価値とリース資産の借手における見積もり購入価額のいずれか小さい金額で計上します。
また、既存のリース取引については、この時点までの会計処理を原則の利息法で行っていた場合計上されていたはずの利息相当額の合計と、実際に計上した利息相当額の差額を特別損失として計上し、その相手勘定としてリース債務残高を調整します。
⑤ X3年3月31日
 (既存リース第2回&新規リース第1回リース料支払日)
借方 貸方
リース債務 8,310千円※9
支払利息 1,690千円※8
リース債務 7,575千円※11
支払利息 2,425千円※10
現金預金 20,000千円※7
※7支払いリース料
※8既存リース利息相当額((25,000千円-(10,000千円-1,667
 千円-758千円))×9.70%)
※9既存リース元本返済額(10,000千円-1,690千円)
※10新規リース利息相当額(25,000千円×9.70%)。計算利子率
 は既存リース取引と同様。
※11新規リース元本返済額(10,000千円-2,425千円)
既存リース取引・新規リース取引どちらも、原則の利息法により支払リース料の会計処理を行います。
⑥ X3年3月31日(第2回決算日)
借方 貸方
減価償却費 8,333千円※5
減価償却費 8,333千円※5
減価償却累計額 8,333千円※5
減価償却累計額 8,333千円※5
※5リース資産計上額25,000千円÷解約不能リース期間3年
第1回の決算日と同様の会計処理を、既存リースと新規リースそれぞれに行います。
⑦ X4年3月31日(既存リース第3回&新規リース第2回リース料支払日)
借方 貸方
リース債務 9,115千円※13
支払利息 885千円※12
リース債務 8,310千円※15
支払利息 1,690千円※14
現金預金 20,000千円※7
※7支払いリース料
※12既存リース利息相当額((25,000千円-(10,000千円-1,667
 千円-758千円)-8,310千円)×9.70%)
※13既存リース元本返済額(10,000千円-885千円)
※14新規リース利息相当額((25,000千円-7,575千円)×9.70%)
※15新規リース元本返済額(10,000千円-1,690千円)
前回の支払と同様の会計処理を行います。
⑧ X4年3月31日(第3回決算日)
借方 貸方
減価償却費 8,334千円※5
減価償却費 8,333千円※5
減価償却累計額 8,334千円※5
減価償却費 8,333千円※5
※5リース資産計上額25,000千円÷解約不能リース期間3年
前回の決算日と同様の会計処理を行います。
⑨ X4年3月31日(既存リース取引終了時)
借方 貸方
減価償却累計額 25,000千円※16 リース資産 25,000千円※16
※16既存リース取引物件Xの帳簿残高
既存リース取引終了時には、該当の物件Xの固定資産帳簿残高を相殺してゼロにします。
⑩ X5年3月31日(新規リース第3回リース料支払日)
借方 貸方
リース債務 9,115千円※18
支払利息 885千円※17
現金預金 10,000千円※2
※2支払いリース料
※17新規リース利息相当額((25,000千円-7,575千円-8,310
  千円)×9.70%)
※18新規リース元本返済額(10,000千円-885千円)
新規リース分のみ前回の支払と同様の会計処理を行います。
⑪ X5年3月31日(決算日)
借方 貸方
減価償却費 8,334千円※5 減価償却累計額 8,334千円※5
※5リース資産計上額25,000千円÷解約不能リース期間3年
新規リースのみ前回の決算日と同様に会計処理を行います。
⑫ X5年3月31日(新規リース取引終了時)
借方 貸方
減価償却累計額 25,000千円※19 リース資産 25,000千円※19
※19新規リース取引物件Xの帳簿残高
新規リース取引終了時には、該当の物件Xの固定資産帳簿残高を相殺してゼロにします。
これによりリース取引に関するB社の帳簿残高はゼロになり、取引が完了します。
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