通常の販売目的で保有する
棚卸資産(半製品・仕掛品)の
期末評価

通常の販売目的で保有する棚卸資産である半製品・仕掛品は、取得原価で貸借対照表に計上します。

ただし、期末においてその正味売却価額が取得原価よりも下落している場合は、その正味売却価額まで帳簿価額を引き下げます。

その際に、取得原価と正味売却価額の差額は当期の費用として処理します。

これにより、保有している棚卸資産の収益性の低下による損失を将来に繰り延べることを防止し、資産として計上する棚卸資産を将来回収可能な額で適切に表現することができます。 (棚卸資産の評価に関する会計基準第7・36・37・40項)
ただし実務上は、収益性が低下していないことが明らかで、事務負担を掛けてまで収益性の低下の判定を行うまでもないと認められる場合には、正味売却価額を見積もり収益性の低下の判定を行う必要はありません。この判定は、企業がその実態に応じて判断すべきとされています。 (棚卸資産の評価に関する会計基準第48項
『棚卸資産の評価に関する会計基準の会計基準案(平成18年7月5日公表)』に対するコメント『範囲ついて』)
ケース 期末棚卸資産の会計処理

収益性が低下していないことが明らで収益性の低下の判定を行うまでもない場合

正味売却価額による判定不要
⇒帳簿価額でBS計上

上記以外

正味売却価額による収益性低下の判定を実施

【正味売却価額≧帳簿価額の場合】
帳簿価額のままBS計上

【正味売却価額≦帳簿価額の場合】
帳簿価額を正味売却価額まで切り下げ、差額はPLに損失計上
棚卸資産の評価額減少には、品質低下や陳腐化によるものと市場価値の下落によるものがあります。

これらは、発生原因は相違するものの、正味売却価額の下落による収益性の低下という点は共通です。

また、実際に評価減が発生した場合、その下落の要素を明確に区別することは困難であることが想定されます。

そのため、会計上はそれぞれを区分せずに評価減の処理を行います。
【棚卸資産の評価減の要因】
①品質低下
②陳腐化
③市場価値の低下

⇒会計上はそれぞれを区分せず一括して
 評価減の処理を行う
(棚卸資産の評価に関する会計基準第38・39項)
半製品・仕掛品における正味売却価額とは、売価から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除したものをいます。
半製品・仕掛品における正味売却価額
=売価-(見積追加製造原価+見積販売直接経費)
このように、半製品・仕掛品については、完成までにかかる追加コストと販売にかかる追加コストを売価から控除して、回収可能額である正味売却価額を算定します。

この時使用する『売価』には、購買市場と売却市場が区別されている場合は、売却市場の時価を使用します。 (棚卸資産の評価に関する会計基準第5項)
市場は一般的に、対象の地域(日本か海外かなど)やターゲット(卸売向けか一般消費者向けかなど)、販売チャネル(店舗販売かネット販売かなど)等で分類された複数の市場とその市場における売価が存在します。

棚卸資産の期末評価においてはそのような選択肢の中から、企業が実際に販売予定である又は販売できると見込まれるマーケットの売価を使用します。

複数の市場に参加しており、棚卸資産をそれぞれの市場向けに区分できない場合は、それぞれの市場の販売比率に基づいた加重平均売価等を算定して使用します。

売却市場において、市場価額が観察できない場合は、売手が実際に販売できると合理的に見込まれる価額を売価とみなすことができます。

具体的には、期末前後の販売実績価額を売価とみなす方法、対象の棚卸資産の売却についての契約が締結されている場合には契約上の売価を使用する方法などが挙げられます。 (棚卸資産の評価に関する会計基準第8・11・34・41・42・51・52項)
また、正味売却価額の算定においては、期末において見込まれる『将来販売時点』の売価を使用します。

そのため、期末時点の売価に基づいた正味売却価額が帳簿価額より下落していても、将来販売時点の売価に基づく正味売却価額が下落していなければ、簿価の引き下げを行う必要はありません。

しかし、実務上は期末時点の売価が下落している場合、将来販売時点の売価が期末時点よりも上昇することを証明することは、通常、困難であると考えられるため、そのようなケースは限定的であると想定されます。

また、反対に期末時点の売価は下落していないものの、期末時点で見込まれる将来販売時の売価が下落しているケースも想定されます。

通常、企業は合理的な意思決定を行うと考えられますので、このようなケースの場合、売価の下落前にその棚卸資産を売却することが想定されます。

このようにすぐに売却が可能な場合は、直近の売価で投資の回収が可能になるため、簿価の引き下げは不要です。

しかし、契約や事業遂行上等の制約により、すぐに販売できないような場合は、将来販売時点の売価に基づいた正味売却価額で簿価の切り下げを行わなければなりません。

さらに、期末の売価が突発的な要因により一時的に大きく変動している場合は、期末付近の合理的な期間の平均的な売価を正味売却価額として使用します。

正味売却価額は、将来販売時点の見込みであるため、一時的な異常値を用いることは不適切であり、その価額をそのまま用いることはできません。 (棚卸資産の評価に関する会計基準第41・43・45項)
【正味売却価額に使用する売価を特定する際のポイント】

●購買市場と売却市場が区別されている場合
 は、売却市場の時価を使用

●期末において見込まれる『将来販売時点』
 の売価を使用

●複数の市場に参加しており棚卸資産を市場
 別に区分できない場合は、販売比率に基づ
 いた加重平均売価等を使用

●企業が実際に販売予定である又は販売でき
 ると見込まれるマーケットの売価を使用

●期末の売価が一時的に大きく変動している
 場合は、合理的な期間の平均的な売価を
 使用

●売却市場で市場価額が観察できない場合、
 売手が実際に販売できると合理的に見込ま
 れる価額を売価とみなす

 例)期末前後の販売実績価額
   予定されている契約の価額
収益性の低下の判定は、原則としては個別品目ごとに行います。これは棚卸資産に関する投資の成果が、通常、個別品目ごとに確定することに起因しています。

ただし、複数の棚卸資産を一括した単位で行うことが適切であると判断できる時には、継続適用を条件にその方法で判定することができます。

複数の棚卸資産を一括した単位で取り扱うことが適当と考えられるケースとしては、下記のようなものが挙げられます。
【複数の棚卸資産を一括した単位で取り扱うことが適当と考えられるケース】

●特定の製品の材料・仕掛品と完成品を1つの
 グループとする場合

●補完的な関係にある複数商品
(棚卸資産の評価に関する会計基準第12・53項)
次のページでは、通常の販売目的で保有する棚卸資産(材料)の期末評価について具体的にご紹介します。