満期保有目的の債権に分類される公社債の売却時の会計処理

【満期保有目的の債権の売却の条件】

 原則:償還期限前の売却は不可
     ⇒これに反して売却した場合、
     下記の制限を受ける

      制限①:満期保有目的の債券に分
         類された残りの全ての債
         券について、保有目的の
         変更があったものと
          みな
         され、売買目的有価証券
         又はその他有価証券に振
         り替えなければならない

      制限②:売却した事業年度を含む
         2事業年度中は、取得した
         債券を満期保有目的の債
         券に分類すること
          ができ
         ない

 例外:以下のような状況が生じた場合
    又は生じると合理的に見込まれる場
    合は、保有継続による損失回避のた
    
    売却可(①②の制限を受けない)

    ・債券発行者の信用状態の著しい
     悪化

    ・税法上優遇措置の廃止

    ・法令の改正又は規制の廃止

    ・監督官庁の規制・指導

    ・自己資本比率等を算定する上で使
     用するリスクウェイトの変更

    ・その他、予期できなかった売却せ
     ざるを得ない、保有者に起因しな
     い事象の発生
満期保有目的の債権は、満期まで保有する目的であるがゆえに、期末の時価評価を行わないとされているため、償還期限までの売却は原則認められません。

それに反して売却した場合、その後の有価証券の取扱いで、いくつかの制限を受けます。

一つ目の制限は、満期保有目的の債券に分類された残りの全ての債券について、保有目的の変更があったものとみなされ、保有目的区分を売買目的有価証券又はその他有価証券に振り替えなければならないということです。

二つ目の制限は、売却した事業年度を含む2事業年度中は、取得した債券を満期保有目的の債券に分類することができないということです。

ただし、一部の満期保有目的の債権については、このような制限を受けることなく、売却することが許容されています。

一部の満期保有目的の債権とは、その債権を売却することにより、保有し続けることによる損失又は不利益を回避できる債権をいいます。

具体的には、債券発行者の信用状態の著しく悪化しているもの、税法上優遇措置の廃止により保有が不利となったもの、法令の改正又は規制の廃止、監督官庁の規制・指導、自己資本比率等を算定する上で使用するリスクウェイトの変更に伴い売却するもの、その他、予期できなかった売却せざるを得ない保有者に起因しない事象の発生等の理由で売却するものが挙げられます。 【根拠資料】
会計制度委員会報告第14号金融商品会計に関する実務指針第83項
【公社債の消滅の認識】

 原則:約定日基準
    ⇒約定日に消滅を認識し売却益損
     を計上

 簡便:修正受渡日基準(要継続適用)
    ⇒約定日:売却益損のみを計上
     受渡日:売却した公社債の消滅を
         認識
公社債を売却した際には、金融資産としての消滅を認識します。

消滅を認識するタイミングは、原則として、その売買契約の約定日です。

これを、『約定日基準』といいます。

ただし簡便法として、継続適用を条件に、約定日に売却損益のみを認識し、受渡日に対象の公社債の金融資産としての消滅を認識することができます。

これを、『修正受渡日基準』といいます。 【根拠資料】
企業会計基準第10号金融商品に関する会計基準第8・9・56・57・58・62項・(注4)
会計制度委員会報告第14号金融商品会計に関する実務指針第231・232・233・ 234・235項・〔設例1〕
【満期保有目的の債権である公社債の
            売却損益の計上】

投資有価証券売却益or損
=売却原価(※1・2)
 -対価としての受け払い額(※3)

※1取得原価、又は、償却原価

※2償却原価法として利息法を採用している
 場合は、先入先出法で算定

※3対価として新たな金融資産を取得した場合
 は、その金融資産の時価
満期保有目的の債権に分類される公社債の消滅を認識する際には、対象の有価証券の帳簿価額(取得原価、又は、償却原価)を売却原価とし、その対価としての受け払い額との差額を、『投資有価証券売却益』又は『投資有価証券売却損』等の勘定科目で損益計上します。

償却原価法として利息法を採用している場合は、先入先出法により、売却原価を算定します。 (企業会計基準第10号金融商品に関する会計基準第11・61項
会計制度委員会報告第14号金融商品会計に関する実務指針第71項)
有価証券の消滅に伴って、新たな金融資産が発生した場合には、その金融資産を時価により資産計上します。

例えば、有価証券の対価として現預金を受取った場合はもとより、回収代金として他の株や債券などの金融資産を受取った際には、その金融資産は時価で計上します。 (企業会計基準第10号金融商品に関する会計基準第13・63項)
下記では、満期保有目的の債権に分類される公社債の売却時の会計処理について、具体例を使用してご紹介します。 【根拠資料】
会計制度委員会報告第14号金融商品会計に関する実務指針設例1
前提条件
A社はB社社債について、下記の取引を行った。

・X1年3月30日に保有しているB社社債帳簿価額4,500千円を
 5,000千円で売却する契約を結んだ
・X1年3月31日におけるB社社債の時価は、一株当り
 4,300千円であった
・X1年4月2日にB社社債を引き渡して、売却代金5,000千円
 を受領した
・B社社債は満期保有目的の債権に区分している
・A社の決算日は3月31日
【原則:約定日基準の会計処理】
① X1年3月30日(約定日)
借方 貸方
未収金 5,000千円※1 投資有価証券 4,500千円※2
投資有価証券売却益 
       500千円※3
※1B社社債売却価額
※2売却したB社社債の帳簿価額
※3B社社債売却価額5,000千円
  -B社社債帳簿価額4,500千円
約定日に、売却したB社社債の消滅及び売却損益を認識します。
② X1年3月31日(決算日)
仕訳なし
B社社債は消滅済みであるため、仕訳は計上しません。
③ X1年4月1日(翌期首)
仕訳なし
B社社債は消滅済みであるため、仕訳は計上しません。
④ X1年4月2日(受渡時)
借方 貸方
現金預金 5,000千円※1 未収金 5,000千円※1
※1B社社債売却価額
約定日に計上した未収金をマイナスし、受領した現金預金を計上します。

【簡便:修正受渡日基準】
① X1年3月30日(約定日)
借方 貸方
投資有価証券 500千円※1 投資有価証券売却益 
       500千円※1
※1B社社債売却価額5,000千円-B社株式帳簿価額4,500千円
約定日には、売却損益のみを認識します。
② X1年3月31日(決算日)
仕訳なし
仕訳は計上しません。
③ X1年4月1日(翌期首)
仕訳なし
仕訳は計上しません。
④ X1年4月2日(受渡時)
借方 貸方
現金預金 5,000千円※2 投資有価証券 5,000千円※2
※2B社社債売却価額
受渡日に売却した有価証券の消滅を認識し、『投資有価証券』勘定からマイナスします。
次のページでは、満期保有目的の債権に分類される公社債の減損時の会計処理について具体的にご紹介します。