ファイナンス・リース取引で見積残存価額がある場合の取り扱い(貸手/第1法)

Question
所有権移転外ファイナンス・リース取引の貸手で、リース物件に見積残存価額があり、貸手の会計処理は第1法を採用しています。このような場合の会計処理はどのようにしたらよいでしょうか?
【Answer】
所有権移転外ファイナンス・リース取引の貸手において、リース物件に見積残存価額がある場合、貸手の計算利子率の算定、現在価値基準の判定、リース取引終了後のリース物件の戻りの会計処理に留意が必要になります。
まず、貸手の計算利子率の算定の際には、基礎となるリース料総額に見積残存価額を加算して、計算利子率を算定します。(リース取引に関する会計基準の適用指針17項)
それに対して、現在価値基準の判定の際には、見積残存価額はリース料の現在価値の算定の基礎となるリース料総額には含めずに割引現在価値を算定します。(リース取引に関する会計基準の適用指針【設例1-5-(2)】)
所有権移転外ファイナンス・リース取引の貸手の会計処理の第1法を採用している場合、リース取引開始日に見積残存価額をリース投資資産計上額に追加するとともに、その相手勘定で売上原価を減額します。(リース取引に関する会計基準の適用指針【設例1-5-(2)】)
リース取引の終了時には、リース物件を見積残存価額でその後の保有目的に応じて貯蔵品又は固定資産等に計上し、その相手勘定でリース取引開始日に計上したリース投資資産をマイナスします。(リース取引に関する会計基準の適用指針57項)
以下では、具体例を使用して所有権移転外ファイナンス・リース取引で見積残存価額がある場合の貸手の会計処理の第1法の会計処理をご紹介します。(参考:リース取引に関する会計基準の適用指針【設例1-5】)
前提条件
A社は物件Xを下記の条件でB社へリースする契約を締結しました。
・所有権移転条項無し
・割安購入選択権無し
・リース物件は特別仕様ではない
・解約不能リース期間3年
・物件Xの購入価額は25,000千円
・リース料年額10,000千円(受取は1年ごとに後払),
 リース料総額30,000千円
・リース物件の経済的耐用年数5年
・貸手における物件Xの見積り残存価額は1,000千円(借手に
 よる残価保証はない)
・リース取引開始日はX1年4月1日
・A社は貸手の会計処理の第1法を採用している
・A社の決算日は3月31日
【現在価値基準による判定】
(貸手の計算利子率の算定)
10,000千円÷(1+r)+10,000千円÷(1+r)^2+(10,000千円+1,000千円)÷(1+r)^3=25,000千円
r=11.38%

(リース料総額の現在価値)
10,000千円÷(1+0.1138)+10,000千円÷(1+0.1138)^2+10,000千円÷(1+0.1138)^3=24,277千円

リース料総額の割引現在価値24,277千円÷現金販売価額25,000千円=97%≧90%

【経済的耐用年数基準による判定】
リース期間3年÷経済的耐用年数5年=60%<75%

【リース取引の判定結果】
解約不能条件有のため、ノンキャンセラブルの要件を満たします。

経済的耐用年数基準では75%に満たないため要件を満たしませんが、現在価値基準が90%のためフルペイアウトの要件を満たします。

所有権移転条件、割安購入権なく、リース物件は特別仕様ではないため所有権移転外に該当します。

上記の結果により、当リース取引は所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当すると判定されます。
【A社の会計処理】
① X1年4月1日(リース取引開始日)
借方 貸方
リース投資資産 30,000千円※1
売上原価 25,000千円※2
リース投資資産 1,000千円※3
売上高 30,000千円※1
買掛金 25,000千円※2
売上原価 1,000千円※3
※1リース料総額
※2物件Xの購入価額
※3物件Xの見積残存価額
リース料総額を売上高に計上するとともに、リース物件の購入価額を売上原価として計上します。
さらに、物件Xの見積残存価額をリース投資資産に計上し、その反対勘定で売上原価を減額します。
これにより当該リース取引で発生するリース利益が一旦全額収益として計上されます。
② X2年3月31日(第1回リース料受取日&決算日)
借方 貸方
現金預金 10,000千円※4
繰延リース
利益繰入 3,155千円※5
リース
投資資産 10,000千円※4
繰延リース利益 3,155千円※5
※4受取リース料
※5リース利益総額(30,000千円-(25,000千円-1,000
  千円)=6,000千円)の内、翌期以降に帰属する利益(6,000
  千円-25,000千円×11.38%)
受取リース料をリース債務の返済として現金預金で収受します。また、リース利益総額6,000千円の内、当期に帰属する利息相当額以外の金額を繰延リース利益として翌期以降に繰り延べます。
③ X3年3月31日(第2回リース料受取日&決算日)
借方 貸方

現金預金 10,000千円※4

繰延リース利益 2,031千円※6
リース
投資資産 10,000千円※4
繰延リース
利益戻入益 2,031千円※6
※4受取リース料
※6繰延リース利益の内、当期に帰属する金額((25,000千円-
  (10,000千円-(6,000千円-3,155千円)))×11.38%)
受取リース料をリース債務の返済として現金預金で収受するとともに、繰延リース利益残高の内、当期に帰属する部分を戻入れて利益として計上します。
④ X4年3月31日(第3回リース料受取日&決算日&リース物件返却日)
借方 貸方

現金預金 10,000千円※4

繰延リース利益 1,124千円※7
貯蔵品 1,000千円※8
リース
投資資産 10,000千円※4
繰延リース
利益戻入益 1,124千円※7
リース投資資産 1,000千円※8
※4受取リース料
※7繰延リース利益の内、当期に帰属する金額(3,155
  千円-2,031千円)
※8物件Xの見積残存価額
最終リース料受取日の仕訳を計上するとともに、物件Xの戻りを貯蔵品として計上し、リース投資資産をマイナスします。
これにより、リース投資資産及び繰延リース利益残高がゼロとなり、リース取引が完了します。
次のページでは、ファイナンス・リース取引で見積残存価額がある場合の貸手の会計処理(第2法)をご紹介します。