原状回復義務への充当により最終的に回収が見込めない敷金の会計処理

【原状回復義務への充当により最終的に回収が見込めない敷金の会計処理】
原則/例外 会計処理

原則法

敷金を資産計上するとともに、回収が見込めない部分について資産除去債務の負債計上、及び、除却費用の資産計上を行う

≪仕訳イメージ≫
■預入時
 (敷金)XXX (現金預金)XXX
 (有形固定資産)XXX 
    (資産除去債務)XXX

■預入期間中
 (利息費用)XXX 
    (資産除去債務)XXX
 (減価償却費)XXX 
   (減価償却累計額)XXX

■返還時
 (現金預金)XXX (敷金)XXX
 (資産除去債務)XXX 
        (敷金)XXX
 (減価償却累計額)XXX 
    (有形固定資産)XXX

例外法

敷金を資産計上し、回収が見込めない部分については合理的な償却期間で各期に費用計上し、反対勘定で直接敷金を減額

≪仕訳イメージ≫
■預入時
 (敷金)XXX (現金預金)XXX

■預入期間中
 (敷金の償却)XXX 
        (敷金)XXX

■返還時
 (現金預金)XXX (敷金)XXX
建物等の賃貸契約において預入れている敷金は、預入時に取得原価で資産計上します。

その敷金の内、退去時に原状回復義務にあてられ最終的に回収が見込めない部分がある場合は、原則として、合理的に見積もった原状回復費用見込額に対して資産除去債務を計上しなければなりません。

具体的には、敷金はその支払額で資産計上し、回収可能性に疑義が生じる等が無い限り、返金までの間、取得原価で据え置きます。

敷金の当初認識時に、同時に、原状回復義務見込額の割引現在価値で資産除去債務及びその相手勘定で有形固定資産を計上します。

資産除去債務の対象となった原状回復費用は、この有形固定資産の減価償却を通じで各期で費用化されます。

その際の減価償却期間としては、平均的な入居期間を使用します。

それに加えて、毎期末においては、資産除去債務の利息費用を計上し、相手勘定で、資産除去債務を増額させます。

その結果、平均的な入居期間終了時点における有形固定資産の帳簿価額はゼロに、資産除去債務の帳簿価額は当初の原状回復費用見込額になります。

退去時においては、返金対象となった敷金を全額マイナスすると同時に、その相手勘定で資産除去債務の帳簿価額を全額マイナスし、収受した金銭を資産計上します。

当初の原状回復費用見込額と実際の原状回復費用に乖離がある場合、その差額は、退去時の損益として処理します。


しかしながら、原則法においては、敷金が全額資産計上されている状態で、さらに資産除去債務に対する金額が有形固定資産として資産計上されており、二重に資産が計上されてしまします。



そのため、賃借契約において、返却時に内部造作等の除去などの原状回復義務が契約で定められている場合で、その契約に対して敷金が資産計上されている場合には、除去費用を資産除去債務と有形固定資産に計上するという原則の方法ではなく、簡便的な方法で処理することが認められています。

簡便法では、契約時に敷金を一旦全額資産計上し、その敷金の内、回収が見込めないと認められる金額について、平均的な入居期間などの合理的な償却期間で、各期に費用計上し、その反対勘定で資産計上した敷金を減額します。

簡便法の場合は時間価値は考慮せず、回収が見込めないと認められる金額を、各期で均等に費用計上します。
【根拠資料】
会計制度委員会報告第14号金融商品会計に関する実務指針第133・309項
資産除去債務に関する会計基準の適用指針第9・27項・〔設例6〕
下記では、原状回復義務への充当により最終的に回収が見込めない敷金の会計処理を具体例を使用してご紹介します。 【根拠資料】
資産除去債務に関する会計基準の適用指針〔設例6〕
前提条件
A社は20X1年4月1日からX建物の賃貸借契約を締結し賃借した。
・A社はX建物返還時の原状回復義務を負う
・20X1年4月1日に敷金1,000千円を支払った
・敷金の内、原状回復に充てる費用は300千円と見積もら
 れた
・資産除去債務に適用する割引率は5.0%
・A社の過去実績から同種の建物の平均的な入居期間は3年
・20X4年3月31日に退去し、原状回復費用300千円を控除し
 た敷金700千円が返金された
【原則法:資産除去債務を計上する方法】
①20X1年4月1日(敷金の支払時)
借方 貸方
敷金 1,000千円※1
有形固定資産 259千円※2
現金預金 1,000千円※1
資産除去債務 259千円※2
※1支払敷金総額
※2原状回復費用見込み額300千円÷(1+0.05)^3
敷金を支払った金額で資産計上します。同時に、原状回復費用見込額を割引現在価値で資産除去債務及び有形固定資産に計上します。
②20X2年3月31日(決算時)
借方 貸方
減価償却費 86千円※3
利息費用 13千円※4
減価償却累計額 86千円※3
資産除去債務 13千円※4
※3有形固定資産計上額259千円÷平均入居期間3年
※4資産除去債務帳簿価額259千円×割引率5.0%
有形固定資産に計上している除去費用の取得価額を、平均入居期間で除した金額で、当期の減価償却費を計上します。同時に、資産除去債務帳簿残高に対して割引率を掛けて、当期分の利息費用を算定し、利息費用の計上とそれに伴う資産除去債務の増額を認識します。
③20X3年3月31日(決算時)
借方 貸方
減価償却費 86千円※3
利息費用 14千円※5
減価償却累計額 86千円※3
資産除去債務 14千円※5
※3有形固定資産計上額259千円÷平均入居期間3年
※5資産除去債務帳簿価額272千円×割引率5.0%
前回の決算日と同様の会計処理を行います。
④20X4年3月31日(決算時)
借方 貸方
減価償却費 87千円※3
利息費用 14千円※6
減価償却累計額 87千円※3
資産除去債務 14千円※6
※3有形固定資産計上額259千円÷平均入居期間3年
  (端数調整を含む)
※6資産除去債務帳簿価額272千円×割引率5.0%
前回の決算日と同様の会計処理を行います。
⑤20X4年3月31日(解約時)
借方 貸方
現金預金 700千円※8
資産除去債務 300千円※7
敷金 1,000千円※1
※1敷金帳簿価額
※7資産除去債務帳簿価額
※8敷金返金額
返金対象となった敷金の帳簿価額をマイナスし、その相手勘定で資産除去債務のマイナス及び収受した現金預金を資産計上します。
【例外法:敷金勘定から直接控除する方法】
①20X1年4月1日(敷金の支払時)
借方 貸方
敷金 1,000千円※1 現金預金 1,000千円※1
※1支払敷金総額
支払った敷金の総額を全額資産計上します。
②20X2年3月31日(原状回復費用の償却)
借方 貸方
敷金の償却100千円※2 敷金100千円※2
※2 原状回復費用の見積り額300千円÷平均入居期間3年
資産計上した敷金の内、原状回復費用に充てられると見込まれる金額を見積り入居期間で除して費用として計上します。
③20X3年3月31日(原状回復費用の償却)
借方 貸方
敷金の償却100千円※2 敷金100千円※2
※2 原状回復費用の見積り額300千円÷平均入居期間3年
前回の決算日と同様の会計処理を行います。
④20X4年3月31日(原状回復費用の償却)
借方 貸方
敷金の償却100千円※2 敷金100千円※2
※2 原状回復費用の見積り額300千円÷平均入居期間3年
前回の決算日と同様の会計処理を行います。
⑤20X4年3月31日(解約時)
借方 貸方
現金預金 700千円※3 敷金 700千円※3
※3敷金返金額
返金対象となった敷金の帳簿価額をマイナスし、収受した現金預金を資産計上します。
次のページでは、敷金(賃借人側)に関連する会計基準を一覧でご紹介します。