資産除去債務とは

資産除去債務の定義

「資産除去債務」とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約によって要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう。
(企業会計基準第 18 号
資産除去債務に関する会計基準 第3項(1))

有形固定資産の除去サービスに係る支払いが、法律上の義務に基づくなど不可避的に生じる場合、たとえその発生が数年後であっても、有形固定資産の取得計上と同じタイミングで、その支払義務を負債として認識します。この負債が資産除去債務です。
資産除去債務を計上することにより、有形固定資産の除去に必要な金額が負債としてBSに表現されます。資産除去債務は、その時点の割引現在価値で負債計上され、時の経過による利息費用が、支払まで毎期のPLに計上されるとともに、資産除去債務残高に加算されます。
また、資産除去債務を負債として計上する際、その相手勘定で同額を有形固定資産の取得価額に加算します。これにより、当該有形固定資産への投資について、除去費用も含め回収すべき金額がBSに表現され、減価償却を通して各期への費用配分が適切に行われます。

資産除去債務の基本的な仕訳の流れ

下記では、資産除去債務の基本の仕訳の流れを、具体例を使用してご紹介します。(参考:資産除去債務に関する会計基準の適用指針〔設例1〕 )
前提条件
A社は、20X1年4月1日に設備Xを5,000千円で取得し、
使用を開始した。
・設備Xの耐用年数は3年
(残存価格ゼロで定額法により減価償却)
・A社には設備Xを使用後に除去する法的義務がある
・A社が設備Xを除去するときの支出は、1,000千円と見積も
 られている
・資産除去債務に適用する割引率は5.0%
・A社の決算日は3月31日
① 20X1年4月1日:設備X取得時の仕訳
借方 貸方
有形固定資産5,864千円※3 現金預金5,000千円※1
資産除去債務864千円※2
※1設備Xの購入価額
※2設備Xの将来除却時に見積もられる費用1,000千円
 ÷(1+0.05)^3
※3設備Xの購入価額5,000千円+資産除去債務計上額864千円
設備Xの取得と同時に、将来の支出である除去費用の割引現在価値を資産除去債務として計上します。

同時に、設備Xの購入価額に資産除去債務計上額を加算した金額を、設備Xの取得価額として固定資産計上します。
②20X2年3月31日:利息費用の計上
借方 貸方
利息費用43千円※4 資産除去債務43千円※4
※4資産除去債務残高864千円×割引率5.0%
期末時点で、時の経過による利息費用を計上すると同時に、同額で資産除去債務の残高を増額します。
③20X2年3月31日:減価償却費の計上
借方 貸方
減価償却費1,955千円※5 減価償却累計額1,955千円※5
※5設備Xの取得価額5,864千円/3年=1,955千円
設備Xの減価償却費を計上します。減価償却費の算定基礎となる設備Xの取得価額は、取得時に計上した資産除去債務額と実際の購入価額を合算した金額になります。
④20X3年3月31日:利息費用の計上
借方 貸方
利息費用45千円※6 資産除去債務45千円※6
※6(資産除去債務残高864千円+43千円)×割引率5.0%
前期末の資産除去債務残高に対して割引率を掛けて、当期分の利息費用を算定し、利息費用の計上とそれに伴う資産除去債務の増額を認識します。
⑤20X3年3月31日:減価償却費の計上
借方 貸方
減価償却費1,955千円※5 減価償却累計額1,955千円※5
※5設備Xの取得価額5,864千円/3年=1,955千円
第1回決算日と同様の仕訳を計上します。
⑥20X4年3月31日:利息費用の計上
借方 貸方
利息費用48千円※7 資産除去債務48千円※7
※7(資産除去債務残高864千円+43千円+45千円)×割引率5.0%
第2回決算日と同様の仕訳を計上します。
⑦20X4年3月31日:減価償却費の計上
借方 貸方
減価償却費1,954千円※5 減価償却累計額1,954千円※5
※5設備Xの取得価額5,864千円/3年=1,954千円
第2回決算日と同様の仕訳を計上します。
上記の仕訳処理を完了すると、20x4年3月31日時点の設備Xに関するBS残高は下記のようになります。
有形固定資産(設備X):5,864千円
減価償却累計額:5,864千円
資産除去債務:1,000千円
追加前提条件
A社は、20X4年3月31日に設備Xを除却した
その際の、除却に係る支出は1,050千円であった
⑧20X4年3月31日:設備Xの除去及び資産除去債務の履行
借方 貸方
減価償却累計額5,864千円※8
資産除去債務1,000千円※9
履行差額(費用)50千円※11
有形固定資産5,863千円※8
現金預金1,050千円※10
※8設備Xの帳簿価額
※9除去時点の資産除去債務残高
※10設備Xの実施の除去費用
※11設備Xの実際の除去費用と資産除去債務計上額の差額
資産除去債務残高全額を取り崩すと同時に、実際の除去費用との差額を履行差額として損益計上します。
次のページでは、どのような場合に資産除去債務の計上が必要になるかを、6つの判定基準を基にご紹介します。