受注制作のソフトウェアの
売上計上

成果物を提供する取引において、収益を認識するのは一連の営業過程において販売が完了した段階、すなわち売手が財を引き渡し、現金や金銭債権の取得等により対価が成立した段階です。

これをソフトウェアの取引に当てはめると、売上計上の要件としては①一定の機能を有する成果物の提供が完了していること、②その見返りとしての対価が成立すること③取引が実在していることが必要になります。
【ソフトウェア取引における売上計上の要件】

①一定の機能を有する成果物の提供が完了していること

②その見返りとしての対価が成立すること

③取引が実在していること
受注制作のソフトウェアについては、基本的にオーダーメイドであることが多く、その仕様は契約により異なります。そのため、顧客の側で契約内容に応じて成果物が一定の機能を有することを確認し、検収等何らかの形で成果物の提供の完了について顧客に確認を取った時点が”成果物の提供が完了”した時点となります。
受注製作のソフトウェア取引については、1つのソフトウェア開発プロジェクトをいくつかのフェーズに分けて契約し、各フェーズごとに検収を行う分割検収のケースも見受けられます。

ソフトウェアの収益を認識するためには、取引の実在性を前提として、一定の機能を有する成果物の提供が完了し、その見返りとしての対価が成立することが必要であるため、契約が分割された場合であっても、通常は最終的なプログラムが完成し、それが成果物として顧客へ提供されるまでは売上を計上することはできません。

ただし、分割されたフェーズの単位で、一定の機能を有する成果物(顧客が使用することができる一定のプログラムや設計書等の関連文書)の提供があり、顧客との間で納品日・入金条件等について事前の取決めがある場合は、その分割したフェーズごとに顧客との間で検収等を行い成果物の提供を完了させ、収益認識することができます。

反対に、各フェーズが単に作業の実施のみに基づく場合や、入金条件のみに関連しているだけではフェーズごとの収益認識は認められません。

これは、最終的なプログラムの完成前に収益認識を行い、事後的にその売上金額が修正されるといったことを防ぐ意図があります。

分割検収の収益認識においては、各フェーズにおける対価の成立、販売代金の回収可能性、返金の可能性等、資金回収のリスクを十分に考慮する必要があります。
また、請負の期間が長期にわたる契約については、工事進行基準を選択適用することができます。しかしながら、現状としてはソフトウェアの収益認識で工事進行基準を採用している事例はあまり多くありません。
受注制作のソフトウェアの
取引の特徴
成果物の提供が
完了する時点

通常の取引

顧客の側で契約内容に応じて成果物が一定の機能を有することを確認し、検収等何らかの形で成果物の提供の完了について顧客に確認を取った時点

分割検収契約で、下記の条件を満たす取引

【条件】
①分割された単位の内容が一定の機能を有する成果物(一定のプログラム、設計書等の関連文書など)である

②顧客との間で納品日、入金条件等の事前の取り決めがある

分割された成果物について、顧客の側で契約内容に応じて成果物が一定の機能を有することを確認し、検収等何らかの形で成果物の提供の完了について顧客に確認を取った時点

※分割された単位で収益認識することができる

分割検収契約で、下記の条件を満たさない取引

【条件】
①分割された単位の内容が一定の機能を有する成果物(一定のプログラム、設計書等の関連文書など)である

②顧客との間で納品日、入金条件等の事前の取り決めがある

顧客の側で最終的なプログラムについて、契約内容に応じて成果物が一定の機能を有することを確認し、検収等何らかの形で成果物の提供の完了について顧客に確認を取った時点

※分割された単位で収益認識することができない

請負期間が長期にわたる取引で工事進行基準を適用している場合

工事の進行に基づき収益を認識する
なお、買戻し条件が付いている場合や、事後に大きな補修が生じることが明らかであることにより成果物の提供の完了について問題が生じている場合には、売上を計上することはできません。
(ソフトウェア取引の会計処理に関する実務上の取扱い
第2項(1)・(3))
ソフトウェアは無形であるため、上記の①~③の要件を満たしているかどうかの判断に困難さがある場合があります。

特に、下記のようなケースに当てはまる場合は、①~③の要件の充足性に疑義が生じているとされ、企業はそれらの事実の存在を確認し、客観的に説明ができるようにする必要があります。
【①成果の提供の完了に疑義があるケース】
●通常は検収により成果物提供の完了を確認するケースにおいて、検収書等の証憑を入手していない

●契約の入金予定日を経過しても入金がない

●検収後も主要な機能に関するバグ取り等の作業を継続している
【②対価の成立に疑義があるケース】
●売上計上後に多額の返金・値引きが見込まれている

●過去に類似の取引で売上計上後に多額の返金・値引きを行った実績がある
【③取引が実在性に疑義があるケース】
●通常は契約書等を取り交わすべき取引において、契約書等が存在してない

●通常は契約書等を取り交わすべき取引において、契約書等のドラフトしか存在してない

●通常は契約書等を取り交わすべき取引において、本来の顧客ではなく、第3者(協力会社など)としか契約書等を
 取り交わしていない
事実の存在を確認する方法としては、例えば顧客への報告書等により成果物の完了を確認するなどの方法があります。
(ソフトウェア取引の会計処理に関する実務上の取扱い
第2項(2))
次のページでは、受注制作のソフトウェアの売上値引き及び将来の修繕責任の会計処理について具体的にご紹介します。