賃貸等不動産の当期末時価及び算定方法の注記

賃貸等不動産の注記事項の1つに、『賃貸等不動産の当期末時価及び算定方法』の注記があります。

賃貸等不動産の当期末における時価とは、通常、観察可能な市場価額に基づく価額をいいます。

市場価額が観察できない場合には、合理的に算定された価額をもって、時価とします。

合理的に算定された価額としては、「不動鑑定評価基準」による方法又は類似の方法(海外において用いられている不動産の評価方法など)による自社における合理的な見積り、不動産鑑定士による鑑定評価、契約により取り決められた一定の売却予定価額などがあります。

「不動鑑定評価基準」では評価目的に応じて、正常価格、特定価格、限定価格、特殊価格が列挙されていますが、賃貸等不動産の時価の注記にはこのうち「正常価格」を用いることが合理的であるとさています。

「正常価格」を算定する方法には、再調達原価をもって評価する原価法(コスト・アプローチ)、市場の取引実績価格をもって評価する取引事例比例法(マーケットアプローチ)及び将来において期待される収益をもって評価する収益還元法(インカム・アプローチ)の3つの方法があり、これらの方法により求めた価格を併用又は斟酌して評価額を算定します。
【賃貸等不動産の当期末における時価として使用できるもの】

・観察可能な市場価額に基づく価額

・「不動鑑定評価基準」による方法又は類似
 の方法による自社における合理的な見積り
  ※「不動鑑定評価基準」で定められて
    いるものの内「正常価格」を使用

・不動産鑑定士による鑑定評価

・契約により取り決められた一定の
 売却予定価額
(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準
第4項(1)
賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針
第11・28・29・30・31項
賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準及び適用指針(案)に対するコメント(18))
原則としては、上記の方法で時価を算定しますが、対象の賃貸等不動産の時価の把握可能性、その賃貸等不動産の重要性、及び、最後に時価を把握してからの市場価格の変動の重要性に応じて、いくつかの簡便的な方法による取り扱いが容認されています。
対象の賃貸等不動産の時価の入手が困難でないケースの内、その賃貸等不動産の重要性が乏しくなく、直近で時価を入手した時点からの『一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標』の変動が重要ではないが軽微でもない場合、その直近の時価に調整を加えた価額を当期末の時価として使用することができます。

直近で入手した時価としては、原則的な算定方法で把握した時価の他に、第三者からの取得価額を使用することができます。

ただしこれは第三者からの取得価額が適切に算定されていることを前提としているため、取得価額に合理性が乏しい場合は原則的な時価算定を行わなければなりません。

それに対して、同じ状況で直近で時価を入手した時点からの『一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標』の変動が軽微である場合、その直近の時価をそのまま当期末の時価として使用することができます。

いずれの場合においても、直近の時価の入手の時点から長期間経過している場合には、原則的な時価算定を行う必要性が高まることに留意する必要がります。
【当期末時価の算定等に使用できる直近の時価の具体例】

・過去に原則的な算定方法で把握した時価

・第三者からの取得価額(取得価額に合理性が
 乏しい場合使用不可)

※時価の入手の時点から長期間経過している
 場合には原則的な時価算定を行う必要が高
 まることに留意!
(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針
第12・32項)
対象の賃貸等不動産の時価の入手が困難でないケースの内、その賃貸等不動産の重要性が乏しいものについては、『一定の評価額や適切に市場価額を反映していると考えられる指標に基づく価額』を時価とみなすことができます。

またこの場合、建物等の償却性資産については、適正な帳簿価額をもって時価とみなすこともできます。 (賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針
第13・33項)
上記で登場する『一定の評価額や適切に市場価額を反映していると考えられる指標』は具体的には、いわゆる実勢価格や査定価格等の評価額が挙げられます。

特に土地に関しては、公示価格、都道府県基準価格、路線価による相続税評価額、固定資産税評価額についても、この指標として使用することができます。
【一定の評価額や適切に市場価額を反映していると考えられる指標の具体例】
・実勢価格
・査定価格

※以下は土地に関して
・公示価格
・都道府県基準価格
・路線価による相続税評価額
・固定資産税評価額
(賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針
第33項)
賃貸等不動産の時価を把握することが極めて困難な場合は、時価の注記を省略することができます。

ただしその際に、その賃貸等不動産の重要性が乏しくない場合は、その事由、対象の賃貸等不動産の概要及び貸借対照表計上額を他の賃貸等不動産とは別に記載しなければなりません。

時価を把握することが極めて困難なケースの具体例としては、現在も将来も使用が見込まれておらず、売却も容易にできない山林や着工して間もない抱き規模開発中の不動などが挙げられています。ただし、実際に時価を把握することが極めて困難な場合に該当するかは、各不動産の状況に応じて適切に判断すべきとされています。 (賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針
第14・34項)
【個々の賃貸等不動産に関する重要性と時価の注記の簡便的な取り扱い】
時価の把握の難易度 対象不動産の重要性 市場価格の変動の重要性 注記における対応
困難ではない 乏しくない 重要 原則的な方法
(時価を再取得)
重要でも軽微でもない 直近の時価を調整して使用可
軽微 直近の時価をそのまま使用可
乏しい - 一定の評価額や適切に市場価額を反映していると考えられる指標に基づく価額を時価として使用できる
(償却資産については帳簿価額でもOK)
困難 乏しくない - 時価を注記せず、下記を記載
①その事由
②賃貸等不動産の概要
③貸借対照表計上額
乏しい - 時価の注記を省略可
賃貸等不動産の当期末における時価は、当期末の取得原価から減価償却及び減損損失を控除した金額と比較できるように記載します。 (賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針
第15項)
次のページでは、賃貸等不動産に関する損益の注記について具体的にご紹介します。