多通貨会計

多通貨会計とは、1つの帳簿の中で、2種類以上の通貨建で会計記録・管理をする方法です。

”外国通貨での記録”を行っている場合、1つの会社の帳簿の中で複数の通貨建での記帳を行うめ、通常の記帳方法では、その管理・運営が煩雑になってしまいます。

多通貨会計は、そのような”外国通貨での記録”における会計処理の煩雑さを改善することで、実務での負担を軽減し、会計処理の正確性を向上するという役割を果たします。


多通貨会計では、まず、仕訳を記帳する際に、基本通貨(通常の記帳に使している通貨)建取引については基本通貨で、”外国通貨での記録”を適用している取引については、その外国通貨で記帳します。

各通貨建で計上した仕訳を集計することで、各通貨建の試算表がそれぞれ作成できます。

そして、各月末等の一定の時点において、外貨建てで作成している試算表部分を、基本通貨に換算替します。

最後に、基本通貨建てとなったそれぞれの試算表を合算して、基本通貨建の総合試算表を作成します。 (多通貨会計のガイドライン第1項)
月末等の一定の時点での換算では、その時点の直物為替相場又は合理的な基礎に基づいて算定された一定期間の平均相場を使用します。 (外貨建取引等会計処理基準(注3)
外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第2・49項)
【多通貨会計のステップ】

▶ステップ①:各通貨建てで仕訳計上

▶ステップ②:各通貨建ての残高試算表を
       作成

▶ステップ③:外貨建試算表を基本通貨へ
       換算
       (換算レートは直物為替相場
       又は一定期間の平均相場を
       使用)

▶ステップ④:各試算表を合算して基本通貨
       の総合試算表を作成
”外国通貨での記録”を採用するためには、外貨建て取引により獲得した外貨を、円転することなく恒常的に外貨のまま使用していなければならなりません。

そのため、多通貨会計を行っている中で、異なる通貨間での仕訳(例えば、外貨建で借入れた現金を円転するなど)が生じることは稀であると想定されます。

しかしながら”稀”に発生してしまうケースがあります。

そのような取引については、多通貨会計では『通貨振替勘定』を用いて仕訳を計上します。

『通貨振替勘定』は、多通貨会計における異通貨間取引を記録するための連結環の役割を果たす勘定科目です。

異通貨間取引が発生した場合には、各通貨で『通貨振替勘定』を相手勘定に仕訳を計上します。

それにより、1つの仕訳が2種類以上の通貨を跨ることがなく、各通貨建ての仕訳は各通貨建てで完結し、各通貨の試算表の貸借残高が一致しなくなることを防ぐことができます。

さらに、月末等の一定の時点で換算替えして総合試算表を作成すると、必然的に取引時レートと換算替時点のレートとの差額から生じる為替差損益が『通貨振替勘定』の残高として残るため、為替差損益の集計も容易になります。
【異通貨間取引を記録する
           『通貨振替勘定』】

多通貨会計における異通貨間取引は各通貨ごとにで『通貨振替勘定』を相手勘定に仕訳を計上

 メリット1:各通貨の試算表の貸借残高
       の不一致を防ぐ

 メリット2:総合試算表を作成すると為替
       差損益とすべき金額が『通貨
       振替勘定』に集計される


≪具体例≫
100USDを借入れて、@100円/USDで円転して預金とした場合

①借入&円転時ドル建仕訳
  (現金)100USD     (借入金)100USD
  (通貨振替勘定)100USD (現金)100USD

②円転時円建仕訳
  (現金)10,000円     (通貨振替勘定)10,000円

③月末総合試算表の『通貨振替勘定』残高
 (月末直物相場@105円/USD)

    ドル建試算表上の残高100USD
  ×月末直物相場@105円
  -ドル建試算表上の残高10,000円
    =500円 ⇒為替差損に計上
(多通貨会計のガイドライン第1項)
多通貨会計を使用する大きなメリットとしては、為替リスク管理をしやすいということが挙げられます。

通常の記帳方法、つまり、外貨建取引を基本通貨で記帳する場合、外国通貨建資産負債の残高は、各勘定科目に基本通貨で計上されている項目を拾い集めて集計しなければ把握することができません。

それに対して、多通貨会計の場合は各通貨で試算表が作成されるので、外国通貨建資産負債の残高を容易に把握することができ、為替変動があった際には、その影響額をすぐに計算することができます。 (多通貨会計のガイドライン第2項)
下記では、多通貨会計の会計処理について、具体例を使用してご紹介します。(参考:多通貨会計のガイドライン第1項例示1・2)
前提条件
A社にはX事業部とY事業部の2つの事業部があり、X事業部は国内事業を行っているが、Y事業部においては海外向けの事業を行っており、恒常的にUSDのみを使用して事業を営んでいる。そのため、Y事業部の会計記録はUSD建てで行っており、A社は多通貨会計を採用している。
A社における当期中の取引は下記の通りであった。


①Y事業部において1,000USDを借入れて円貨へ両替を行い、
 X事業部の取引先に貸し付けた。
 貸付時の為替相場は@100円/USDであった。

②Y事業部の借入先へ利息として2USDを支払った。

③貸付先より、利息として300円がX事業部に入金された。

④総合試算表作成時における為替相場は@105円/USDで
 あった。
上記の取引を試算表で表すと、下記のようになります。
No 勘定科目 USD建による記録 円建による記録(円) 円建総合試算表(円)
原通貨(USD) 円換算額(円)
現金預金
借入金
通貨振替勘定
現金預金
貸付金
現金預金
1,000
(1,000)
1,000
(1,000)



(100,000)
100,000
100,000
(100,000)
支払利息
現金預金
2
(2)
受取利息
現金預金
(300)
300
為替差損
通貨振替勘定
5,000
(5,000)
(合計)
換算
総合
現金預金
貸付金
借入金
通貨振替勘定
支払利息
受取利息
為替差損
(2)

(1,000)
1,000
2

(210)

(105,000)
105,000
210

300
100,000

(105,000)

(300)
5,000
90
100,000
(105,000)

210
(300)
5,000
次のページでは、2種類ある多通貨会計の会計処理方法(純粋多通貨会計と準多通貨会計)について具体的にご紹介します。