令和元年7月8日以降に契約した定期保険の支払保険料の会計処理
(保険期間が3年以上~10年未満かつ最高解約返戻率が85%超のもの)


【支払保険料の会計処理】




契約者 被保険者 保険金の
受取人
支払保険料の会計処理
法人 役員
使用人
法人 支払保険料の内、損金算入額のみを保険料等で損金計上。

支払額との差額は、前払保険料等に計上。
役員
使用人
(普遍的加入である)
役員
使用人
の遺族
支払保険料の内、損金算入額のみを福利厚生費等で損金計上。

支払額との差額は、前払費用等に計上。
役員
使用人
(普遍的加入でない)
役員
使用人
の遺族
被保険者の給与となる

※役員報酬の場合は定期同額給与
法人が自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者として、令和元年7月8日以降に契約した定期保険の内、保険期間が3年以上で最高解約返戻率が50%超のものは、『保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合』に該当します。

そのため、保険期間が3年以上~10年未満かつ最高解約返戻率が85%超の定期保険契約の支払保険料は、法人税法基本通達9-3-5の2の規定に基づいて算定した損金算入額のみを損金計上し、支払額との差額は、前払保険料等の資産科目に計上することで、各期に計上される損金の額を調整します。
支払保険料を損金計上する際には、保険金又は給付金の受取人が法人である場合は、保険料等の科目を使用します。

それに対して、保険金又は給付金の受取人が被保険者の遺族である場合は、福利厚生費等の科目を使用します。
ただし、保険金又は給付金の受取人が被保険者の遺族である場合で、役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを被保険者としている場合は、支払保険料は当該役員又は使用人に対する給与となり、前払の経過勘定を用いた『相当多額の前払部分の保険料』部分の期間帰属の調整を行う必要はありません。

このとき、被保険者が役員で、法人が負担する保険料が毎月おおむね一定である場合は、定期同額給与となります。

特定の役員または部課長その他特定の使用人のみを被保険者とした加入でないことを『普遍的加入』といいます。

普遍的加入の詳細な要件については、下記のページをご参照下さい。
保険契約における普遍的加入とは
定期保険に関する税制の改正履歴と、適用される支払保険料の会計処理の総まとめは、下記のページをご参照ください。
定期保険に関する税制の改正履歴と会計処理の総まとめ
【定期保険における当期分支払保険料の額とは】

定期保険における当期分支払保険料の額とは、支払った保険料の額のうち、当事業年度に対応する部分の金額。


※法人税基本通達9-3-5の2の保険料の損金算入
 額は当期分支払保険料を基準に算定される

※前納制度や短期払(保険期間より保険料払込
 期間が短い場合)の前払い部分は当期分支払
 保険料に含まず、
 全額、前払保険料等で
 資産計上

※短期払いは、下記の計算式で当期分支払
 保険料の額を算定

 『短期払の当期分支払保険料の額
 =総支払保険料÷保険期間』

   例)保険期間40年の契約を、1年当り20万円
  で10年間で支払完了するケース
   
 当期分支払保険料=20万円×10年÷40年
         =5万円

※法人税基本通達通2-2-14の『短期の前払費
 用』に該当する場合は、支払日の属する
 事業年度の当期分支払保険料と
 してOK!
法人税基本通達9-3-5の2では、定期保険の保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合、『当期分支払保険料の額』の一部を資産として計上することで、『相当多額の前払部分の保険料』部分の期間帰属の調整を行います。

ここで登場する『当期分支払保険料の額』とは、支払った保険料の額のうち、当事業年度に対応する部分の金額をいいます。 【参考文献】
法人税基本通達9-3-5の2(注)1のロ
そのため、いわゆる前納制度を利用して前納金を支払った場合や保険料を短期払した場合など、一定期間分の保険料の額の前払いをした場合には、支払った金額の内、当事業年度に対応する部分の金額のみが『当期分支払保険料の額』となり、法人税基本通達9-3-5の2の取扱いが適用されます。

それ以外の前払い部分については全額、前払保険料等で資産計上し、期間の経過に伴い『当期分支払保険料の額』として振替えます。

短期払いの各期における『当期分支払保険料の額』は、保険契約を通して支払う保険料総額を保険期間で除して算定します。 【参考文献】
法人税基本通達9-3-5の2(注)4
定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ[Q2]
また、保険料を年払としている場合は、支払日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払っているため、法人税基本通達通2-2-14で規定されている『短期の前払費用』に該当し、その支払額に相当する金額を継続して支払日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、その金額を『当期分支払保険料の額』とすることが認められます。 【参考文献】
定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ[Q2]
法人税基本通達2-2-14
【法人税基本通達9-3-5の2の保険料損金算入額
(保険期間が3年以上~10年未満かつ最高解約返戻率が85%超の場合)】
期間 会計処理

保険期間の前半50%
(資産計上期間)

■損金計上額
当期分支払保険料×(1-最高解約返戻率×0.9)

■資産計上額
当期分支払保険料×最高解約返戻率×0.9

※事業年度の中途で前半50%
 の期間が終了する場合
 は、
 月割按分(1カ月未満の端数
 は切り捨て)

保険期間の前半50%期間経過後
(取崩期間)

■損金計上額
当期分支払保険料
+前半50%経過時点資産計上
 額を取崩期間の経過に
 応じ
 て均等に取り崩した金額

※取崩期間に1月未満の端数
 がある場合は切り上げ
保険期間が3年以上~10年未満かつ最高返戻率が85%超の定期保険について、『相当多額の前払部分の保険料』部分の期間帰属の調整を行う場合、保険期間開始から50%の期間に当期分支払保険料の一部を資産計上し、最高解約返戻額到達後の保険期間で資産計上した保険料を取崩します。

具体的には、保険期間開始から50%の期間の当期分支払保険料については、当期分支払保険料に最高解約返戻率と『0.9』を掛けて算定した金額までを資産計上し、残額を損金として計上します。

事業年度の中途で、資産計上期間である保険期間の前半50%が終了する場合には、月数按分します。

その際に、事業年度に含まれる資産計上期間の月数に、1月未満の端数がある場合は、その端数は切り捨てます。

その後、保険期間の前半50%経過後においては、当期分支払保険料を全額損金として計上するとともに、前半に資産計上した保険料を残りの保険期間で均等に取崩し、保険料として損金に振替えます。

振替え額の算定において、保険期間の前半50%経過後の期間に、1カ月未満の端数が有る場合は、その端数は切り上げます。

なお、ここで使用する『保険期間』とは、保険契約に定めている契約日から満了日までをいいます。 【参考文献】
法人税法基本通達9-3-5の2
下記では、令和元年7月8日以降に契約した定期保険で、保険期間が3年以上~10年未満かつ最高解約返戻率が85%超のものの支払保険料の会計処理を、具体例を使用してご紹介します。 【参考文献】
中村慈美・樋口翔太(2022)『企業の保険をめぐる税務/第1章1Q&A7』一般財団法人大蔵財務協会
山本英生(2019)『「通達」から読み解く保険税務/第2章3⃣(1)③』税務研究会出版局
前提条件
A社は従業員に対して、下記の条件で定期保険を契約した。
・令和2年4月1日に保険契約を開始した
・毎年3月31日に1年分の保険料3,000千円を後払いする
・最高解約返戻率は90%である
・保険期間は令和2年4月1日~令和10年3月31日の8年である
・保険金の受取人は法人である
【ケース1:保険金の受取人が法人】
① 令和3年3月31日(保険料支払時)
借方 貸方
保険料 570千円※2
前払保険料 2,430千円※3
現金預金 3,000千円※1
※1当期分支払保険料
※2当期の3,000千円×(1-高解約返戻率90%×0.9)
※3当期の3,000千円×(最高解約返戻率90%×0.9)
保険期間の前半50%に該当するため、当期分支払保険料に『最高解約返戻率×0.9』を掛けた金額を資産として前払保険料に計上し、残額を損金とし上します。
以後、前半50%に到達する令和6年3月31日迄、同様の会計処理を行います。
② 令和7年3月31日(保険料支払時)
借方 貸方
保険料 5,430千円※5 現金預金 3,000千円※1
前払保険料 2,430千円※4
※1当期の保険料
※4(前払保険料2,430千円×4年)÷(12カ月×4年)×12カ月
※5当期の保険料3,000千円+振替え分2,430千円
保険期間の前半50%期間経過後の期間該当するため、当期分支払保険料を全額費用計上するとともに、前半に資産計上した保険料を保険期間の前半50%期間経過後の期間で按分して、当事業年度に帰属する部分について、前払保険料を取り崩し、保険料として損金計上します。
以後、保険期間終了が終了する令和10年3月31日まで同様の会計処理を行います。その結果、令和10年3月31日時点では、前半に資産計上した前払保険料は全て取り崩され、ゼロになります。
【ケース2:保険金の受取人が被保険者の遺族かつ普遍的加入である】
① 令和3年3月31日(保険料支払時)
借方 貸方
福利厚生費 570千円※2
前払費用 2,430千円※3
現金預金 3,000千円※1
※1当期分支払保険料
※2当期の3,000千円×(1-高解約返戻率90%×0.9)
※3当期の3,000千円×(最高解約返戻率90%×0.9)
保険期間の前半50%に該当するため、当期分支払保険料に『最高解約返戻率×0.9』を掛けた金額を資産として前払費用に計上し、残額を損金とし上します。
以後、前半50%に到達する令和6年3月31日迄、同様の会計処理を行います。
② 令和7年3月31日(保険料支払時)
借方 貸方
福利厚生費 5,430千円※5 現金預金 3,000千円※1
前払費用 2,430千円※4
※1当期の保険料
※4(前払費用2,430千円×4年)÷(12カ月×4年)×12カ月
※5当期の保険料3,000千円+振替え分2,430千円
保険期間の前半50%期間経過後の期間該当するため、当期分支払保険料を全額費用計上するとともに、前半に資産計上した保険料を保険期間の前半50%期間経過後の期間で按分して、当事業年度に帰属する部分について、前払費用を取り崩し、福利厚生費として損金計上します。
以後、保険期間終了が終了する令和10年3月31日まで同様の会計処理を行います。その結果、令和10年3月31日時点では、前半に資産計上した前払費用は全て取り崩され、ゼロになります。
【ケース3:保険金の受取人が被保険者の遺族かつ普遍的加入でない】
① 令和3年3月31日(保険料支払時)
借方 貸方
給与 3,000千円※1 現金預金 3,000千円※1
※1当期の保険料
当期の保険料を、全額、給与として計上します。
以後、同様の会計処理を行います。
次のページでは、令和元年7月8日以降に契約した定期保険の支払保険料の会計処理(保険期間が10年以上かつ最高解約返戻率が85%超のもの)について具体的にご紹介します。