一般債権における貸倒実績率の算定方法

【貸倒実績率の算定方法】

 貸倒実績率
=貸倒損失実績
 ÷期末債権残高又は当初発生元本金額

  (貸倒見積高を算定するための貸倒実績率は、上記で算定した各期の貸倒実績率を算定期間分だけ平均して算定)


 貸倒実績率の算定方法には、下記の3種類が
有る


 ■期末債権残高をベースにする方法
 (簡便的な方法)

  分母   :各期末債権残高合計
  分子   :翌期以降の対象期間に発生した
      貸倒損失合計額
        (分母債権に対するもの以外を含む)

  貸倒見積高:期末債権残高×貸倒実績率


 ■期末債権残高をベースにする方法
 (厳密な方法)

  分母   :各期末債権残高合計
  分子   :翌期以降の対象期間に分母の債権に対して発生した貸倒損失

  貸倒見積高:期末債権残高×貸倒実績率


 ■期末債権の当初発生元本金額をベースにす
 る方法

  分母   :各期末に残高となっている債権
      の当初発生元本金額合計
  分子   :分母の債権に対して発生した
      貸倒損失総額

  貸倒見積高:期末残債権の当初発生額
      ×貸倒実績率-貸倒損失既発生額
一般債権に区分された債権については、貸倒実績率法で貸倒見積高を算定します。 【根拠資料】
企業会計基準第10号金融商品に関する会計基準第28(1)・92項
貸倒実績率法で使用する貸倒実績率は、ある期間における債権残高又は発生元本金額を分母として、貸倒損失実績を分子として算定します。

具体的な算定方法は、分母及び分子の対象とする範囲の違いにより、3種類あります。


1つ目は、各期末債権残高合計を分母に、翌期以降の対象期間に発生した貸倒損失合計額を分子にする方法です。

この方法では、分母となる債権に関係ない貸倒損失も含めて貸倒実績率を算定するため、簡便的な方法であるとされています。

この方法における貸倒見積高は、『期末の債権残高』に貸倒実績率を掛けて算定します。


2つ目は、各期末債権残高合計を分母に、翌期以降の対象期間に発生した貸倒損失の内、分母の債権に対するもののみの合計額を分子にする方法です。

この方法では、分母となる債権に関係ない貸倒損失は除外して貸倒実績率を算定するため、厳密な方法であるとされています。

この方法における貸倒見積高についても、『期末の債権残高』に貸倒実績率を掛けて算定します。


3つ目は、各期末に残高のある債権の当初発生元本を分母に、分母となった債権に対して発生した貸倒損失総額を分子にする方法です。

この方法では、対象債権の期末残高ではなく、期末に残高のある債権の発生当初の元本金額がいくらで、その債権に対していくら貸し倒れたかといった理論で貸倒実績率を計算します。

そのため、貸倒見積高の算定においても、貸倒実績率を掛ける対象は、『期末の債権残高』ではなく、『期末残高として残っている債権の当初発生額』です。

その計算により算定される金額は、『対象債権の発生から回収』までのトータル期間に対する貸倒見積高です。

貸倒引当金の対象は『将来』発生する貸倒損失であるため、そこから、既に発生済みの貸倒損失を控除することで、貸倒引当金の引当対象となる貸倒見積高を算定します。
【貸倒実績率の算定期間】

対象債権の平均回収期間が妥当とされている
※ただし、1年未満は1年を適用

貸倒見積高を算定する際には、上記で算定した各期の貸倒実績率を、設定した算定期間分だけ平均して算定した貸倒実績率を使用します。

貸倒実績率の算定基礎とする期間は、対象債権の回収期間が妥当とされています。ただし、回収期間が1年を下回る場合には、通常、1年を適用します。

下記では、一般債権における貸倒実績率の算定について、具体例を使用してご紹介します。
前提条件
A社の当期における貸付金及び貸倒損失の状況は下記の通りであった。
                                          (単位:千円)
  X1年度 X2年度 X3年度 X4年度 X5年度 X6年度 Total
元本期
末残高
(貸倒
損失)
9,000

(0)
6,000

(60)
3,000

(18)
0

(30)
0

(0)
0

(0)
9,000

(108)
元本期
末残高
(貸倒
損失)
0

(0)
6,000

(0)
4,000

(30)
2,000

(40)
0

(8)
0

(0)
6,000

(78)
元本期
末残高
(貸倒
損失)
0

(0)
0

(0)
12,000

(0)
8,000

(90)
4,000

(10)
0

(6)
12,000

(106)
元本期
末残高
(貸倒
損失)
0

(0)
0

(0)
0

(0)
4,500

(0)
3,000

(15)
1,500

(35)
4,500

(50)
元本期
末残高
(貸倒
損失)
0

(0)
0

(0)
0

(0)
0

(0)
15,000

(0)
10,000

(40)
15,000

(40)
元本期
末残高
(貸倒
損失)
0

(0)
0

(0)
0

(0)
0

(0)
0

(0)
7,500

(0)
7,500

(0)

・貸倒見積高は過去3年の貸倒実績率の平均値で算定する
・X1年3月31日時点の貸倒引当金残高はゼロである
・A社の決算日は3月31日
【期末債権残高をベースにする方法(簡便的な方法)】
① X1年3月31日(決算時)
借方 貸方
貸倒引当金繰入 399千円※1 貸倒引当金 399千円※1
※1期末貸付金残高(1,500千円+10,000千円+7,500千円)
  ×貸倒実績率2.1%

 貸倒実績率は、下記のX1~X3年度の平均を使用

■X1年度
 貸倒実績率
 =(60千円+18千円+30千円+30千円+40千円+90千円)
  ÷9,000千円=3.0%

■X2年度
 貸倒実績率
 =(18千円+30千円+30千円+40千円+8千円+90千円+10千円
  +15千円)
  ÷(6,000千円+6,000千円)=2.0%

■X3年度
 貸倒実績率
 =(30千円+40千円+8千円+90千円+10千円+6千円+15千円
  +35千円+40千円)
  ÷(3,000千円+4,000千円
  +12,000千円)=1.4%
各期末債権残高合計を分母に、翌期以降の対象期間に発生した貸倒損失合計額を分子に各期の貸倒実績率を算定します。算定した貸倒実績率の3年平均を期末債権残高に掛けて、貸倒見積高を算定し、差額補充法で貸倒引当金を計上します。
【期末債権残高をベースにする方法(厳密な方法)】
① X1年3月31日(決算時)
借方 貸方
貸倒引当金繰入 209千円※1 貸倒引当金 209千円※1
※1期末貸付金残高(1,500千円+10,000千円+7,500千円)
  ×貸倒実績率1.1%

 貸倒実績率は、下記のX1~X3年度の平均を使用

■X1年度
 貸倒実績率
 =(60千円+18千円+30千円)
  ÷9,000千円=1.2%

■X2年度
 貸倒実績率
 =(18千円+30千円+30千円+40千円+8千円)
  ÷(6,000千円+6,000千円)=1.1%

■X3年度
 貸倒実績率
 =(30千円+40千円+8千円+90千円+10千円+6千円)
  ÷(3,000千円+4,000千円+12,000千円)=1.0%
各期末債権残高合計を分母に、翌期以降の対象期間に発生した貸倒損失の内、分母の債権に対するもののみの合計額を分子に、各期の貸倒実績率を算定します。算定した貸倒実績率の3年平均を期末債権残高に掛けて、貸倒見積高を算定し、差額補充法で貸倒引当金を計上します。
【期末債権の当初発生元本金額をベースにする方法】
① X1年3月31日(決算時)
借方 貸方
貸倒引当金繰入 207千円※1 貸倒引当金 207千円※1
※1期末貸付金残高(4,500千円+15,000千円+7,500千円)
  ×貸倒実績率1.1%-(15千円+35千円+40千円)

 貸倒実績率は、下記のX1~X3年度の平均を使用

■X1年度
 貸倒実績率
 =108千円÷9,000千円
 =1.2%

■X2年度
 貸倒実績率
 =78千円÷6,000千円
 =1.3%

■X3年度
 貸倒実績率
 =106千円÷12,000千円
 =0.9%
各期末に残高のある債権の当初発生元本を分母に、分母となった債権に対して発生した貸倒損失総額を分子に、各期の貸倒実績率を算定します。算定した貸倒実績率の3年平均を期末債権残高に掛けた金額から、既に発生済みの貸倒損失を控除して貸倒見積高を算定します。最後に、差額補充法で貸倒引当金を計上します。
次のページでは、貸倒懸念債権に対する貸倒見積額の算定について具体的にご紹介します。