仮想通貨交換業者が利用者から預かった仮想通貨の会計処理

仮想通貨交換業者は、利用者が保有する仮想通貨を売却した後や、利用者から仮想通貨の送付を受ける際に、利用者の仮想通貨を預かることがあります。

このような預かり仮想通貨は、仮想通貨交換業者が保有する仮想通貨と明確に区別し、かつ、どの利用者から預かったものであるかを明確に区別できる状態で管理することが『仮想通貨交換業者に関する内閣府令』で定められています。

仮想通貨交換業者が利用者から預かった仮想通貨は、仮想通貨交換業者の貸借対照表上では「利用者暗号資産」などの勘定科目で、仮想通貨交換業者の資産として認識します。

他の資産を預かる際には、自己の資産として計上しない方法を取ることが一般的ではありますが、預かり仮想通貨については、仮想通貨交換業者が自己の判断で処分することができる状態であること、仮想通貨交換業者が破産手続きの開始決定を受けた際に、預託者の取戻権が認められていないことなどの理由から、自己の資産として計上し、区分管理するという方法が規定されています。

この「利用者暗号資産」の勘定科目は、その管理方法別に、仮想通貨交換業者が自社で管理するものについては「保管暗号資産」、第3者に管理させるものについては「預け暗号資産」の中科目を使用することもあります。

また、暗号資産の預りに伴い発生する利用者に対する返還義務は「利用者からの預り暗号資産」などの勘定科目で負債として認識します。

預かり時におけるこれらの資産・負債の計上額は、預かったときの時価により算定します。

仮想通貨を送る際には、マイナーに対し支払う手数料であるマイニングフィーが発生します。支払ったマイニングフィーについては、仮想通貨交換業者のPLで「支払手数料」に計上します。

また、利用者から受払手数料を収受している場合は、仮想通貨交換業者のPLで「その他受け入手数料」として収益計上します。
 
対象 会計処理

利用者から預かった仮想通貨 

預かり時の時価で「利用者暗号資産」などの勘定科目で資産計上

※仮想通貨交換業者が保有す
 る仮想通貨とは区分して
 
 管理

※仮想通貨交換業者が管理す
 るものは「保管暗号資
 
 産」、第3者に管理させる
 ものは「預け暗号資産」の
 
 中科目を使用する

利用者に対する仮想通貨の返還義務

預かり時の時価で「利用者からの預り暗号資産」などの勘定科目で負債計上

仮想通貨交換業者負担したマイニングフィー

「支払手数料」の勘定で仮想通貨交換業者の費用として計上

利用者から受け入れた受払手数料

「その他受け入手数料」の勘定で仮想通貨交換業者の収入として計上
(資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取り扱い第14・54・55・56項
暗号資産取引業における主要な経理処理例示Ⅲ1(1)ロ・ニ)
また、期末においては、仮想通貨交換業者が保有する通常の仮想通貨と同様の方法で、利用者から預かった仮想通貨を評価します。

ただし、利用者から預かった仮想通貨と、仮想通貨交換業者が保有する仮想通貨は、簿価分離して処理しなければなりません。

同時に、利用者に対する返還義務として計上した負債についても、利用者から預かった仮想通貨と同額で評価します。

そのため、利用者から預かった仮想通貨に係る資産・負債の期末評価から評価損益をPLに計上することはありません。
【預かり仮想通貨に係る期末における会計処理】

預かり仮想通貨
⇒仮想通貨交換業者が保有する通常の
 仮想通貨と同様の方法で評価

利用者に対する返還義務
⇒預かり仮想通貨と同額で評価

※預かりに関する資産・負債の期末評価から
 評価損益が計上されることはない
  
(資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取り扱い第15・57・58項
暗号資産取引業における主要な経理処理例示Ⅲ1(6)ロ)
下記では、仮想通貨交換業者が利用者から預かった仮想通貨に関する仕訳について、具体例を使用してご紹介します。(参考:暗号資産取引業における主要な経理処理例示Ⅲ1(1)ロ・ニ・(6)ロ)
前提条件
仮想通貨交換業者であるA社は、下記のように利用者Bとの間で仮想通貨の預入・払出を行った。

・利用者BよりX1年4月1日に仮想通貨X10単位の預け入れを
 受けた

・X1年4月1日における仮想通貨Xの時価は1単位当り
 100千円であった

・X2年3月31日における仮想通貨Xの時価は1単位当り
 120千円であった

・利用者Bの依頼によりX2年5月1日に仮想通貨X5単位の
 払い出しを行った

・X2年4月1日の払い出しに対して仮想通貨X0.05単位を
 マイニングフィーとしてマイナーへ支払った

・X2年4月1日における仮想通貨Xの時価は1単位当り
 120千円であった

・X2年4月1日に払い出しに対して利用者Bから受払手数料を
 10千円受領した

・A社の決算日は3月31日である
【A社の会計処理】
① X1年4月1日(利用者Bからの受領時)
借方 貸方
利用者暗号資産 
       1,000千円※1
利用者からの預り暗号資産 
       1,000千円※1
※1預り時仮想通貨Xの時価@100千円×10単位
利用者から預かった仮想通貨Xについて、預り時の時価で利用者暗号資産として資産計上すると同時に、利用者への返還義務を利用者からの暗号資産の勘定科目で負債計します。
② X2年3月31日(決算日時)
借方 貸方
利用者暗号資産 
       200千円※2
利用者からの預り暗号資産 
       200千円※2
※2決算時の仮想通貨Xの時価@120千円×10単位
  ー利用者暗号資産の帳簿価額1,000千円
利用者暗号資産について、期末時価で評価替えを行います。相手勘定で利用者からの預り暗号資産を計上します。
③ X2年4月1日(利用者Bへの返還時)
借方 貸方
利用者からの預り暗号資産 
       600千円※3
支払手数料 6千円※4
利用者からの預り金 10千円※5
現金預金 10千円※5
利用者暗号資産 
       600千円※3
自己保有暗号資産 6千円※4
その他受け入手数料 10千円※5
利用者区分管理信託 10千円※5
※3返還時の仮想通貨Xの帳簿単価@120千円×返還数5単位

※4マイナーに支払ったマイニングフィー
  仮想通貨X0.05単位×支払時時価@120円

※5利用者Xから受け取った受払手数料
利用者Bに返還した仮想通貨Xの帳簿価額分だけ、利用者暗号資産と利用者からの預り暗号資産の勘定を相殺して清算します。
同時に、マイナーに支払ったマイニングフィーを支払手数料として費用計上し、相手勘定で支払に使用した自己保有の仮想通貨Xを減額します。
利用者から受け取る受払手数料は、利用者からの預り金で清算し、同額の利用者区分管理信託を自己の資産である現金預金に振替えます。
次のページでは、仮想通貨交換業者が不明な仮想通貨を受領した場合の会計処理について具体的にご紹介します。