仮想通貨交換業者が利用者との間で仮想通貨のデリバティブ取引を行う場合の会計処理

企業会計基準委員会が発行した『資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取り扱い』では、仮想通貨に関する暫定的な会計処理が定められていますが、仮想通貨交換業者が利用者の間で仮想通貨のデリバティブ取引を行う場合の具体的な会計処理は定められていません。

ただし、仮想通貨交換業者の会計処理については、仮想通貨取引の浸透に伴う経理処理の必要性に応える形で、一般財団日本暗号資産取引業協会から『暗号資産取引業における主要な経理処理例示』が公表されており、こちらには仮想通貨交換業者が利用者との間で仮想通貨のデリバティブ取引を行う場合の具体的な会計処理が例示されているため、現状ではそちらの会計処理を参照することが適切であると考えられます。
利用者との間で行うデリバティブ取引は、一般的には下記の3つのステップで行います。
【利用者とのデリバティブ取引のステップ】

ステップ1:利用者からの証拠金(又は証拠仮
      想通貨)の受け入れ

ステップ2:デリバティブ取引の契約締結

ステップ3:デリバティブ取引の期末評価

ステップ4:デリバティブ取引の決済
ステップ1について、仮想通貨のデリバティブ取引においては、証拠資産として金銭を受け入れる他に、仮想通貨を受け入れるケースもあります。

利用者から受け入れられた証拠資産は自社の資産と区分管理するため、金銭については『顧客分別金信託』として、仮想通貨については『利用者暗号資産』として資産計上します。

同時に、利用者への証拠資産の返還義務は、金銭については『受入保証金』として、仮想通貨については『受入保証暗号資産』として負債計上します。
【利用者からの証拠資産受け入時の計上科目】

 ⓵金銭を受け入た場合
  受け入れた金銭
  ⇒「顧客分別金信託」の科目で資産計上

  預かりに伴う返済義務
  ⇒「受入保証金」の科目で負債計上


 ②仮想通貨を受入た場合
  受け入れた仮想通貨
  ⇒「利用者暗号資産」の科目で資産計上

  預かりに伴う返済義務
  ⇒「受入保証暗号資産」の科目で負債
    計上
また、証拠資産を受け入れる方法には、受け入れ時に金銭等の受け入れを行うケースと、既に利用者から預け入れられている金銭等を証拠資産に振替える方法があります。

具体的な仕訳としては、それぞれ下記のようになります。
【利用者からの証拠資産受け入時の仕訳】

 <ケース1:
  利用者から金銭を入金されるケース>

   (現金預金)×××             (受入保証金)×××
   (顧客分別金信託)×××        (現金預金)×××

  利用者からの入金時に、その返還義務として「受入保証金」を負債計上します。

  同時に受入れた金銭は「顧客分別金信託」の勘定で自己資産と区分して資産計上します。


 <ケース2:
利用者からの預り金を証拠金に振替える
 ケース>

   (利用者からの預り金)×××      (受入保証金)×××
   (顧客分別金信託)×××      (利用者区分管理信託)×××

  利用者への返還義務は、預り金計上時の「利用者からの預り金」から証拠金用の「受入保証金」に振替えます。

  同時に資産については、「利用者区分管理信託」から証拠金用の「顧客分別金信託」に振替えます。


 <ケース3:
利用者から仮想通貨を受け入れるケース>

   (利用者暗号資産)×××      (受入保証暗号資産)×××

  「利用者暗号資産」を資産として、返還義務については「受入保証暗号資産」を負債として計上します。


 <ケース4:
利用者からの預かり仮想通貨を振替える
 ケース>

   (利用者からの預り暗号資産)××× 
          (受入保証暗号資産)×××

  「利用者暗号資産」の勘定科目は預り・証拠資産ともに共通ですので、振替は不要です。

  負債については、「利用者からの預り暗号資産」から証拠金用の「受入保証暗号資産」に振替えます。
(暗号資産取引業における主要な経理処理例示Ⅲ2(1))
ステップ2のデリバティブ取引の契約締結時については、特段会計処理を行う必要はありません。
(暗号資産取引業における主要な経理処理例示Ⅲ2(2))
ステップ3の期末評価について、仮想通貨のデリバティブ取引が期末時点で未決済の場合、期末時点で決済した場合の損益(みなし決済損益)を当期の損益として計上します。

この「みなし決済損益」については、翌月初又は翌期首に戻入処理を行います。

期末評価損益を計上する際には、PL科目として「暗号資産売買等損益」を、BS科目として「デリバティブ取引」の勘定科目を使用します。
【仮想通貨のデリバティブ取引の期末評価】

期末時点で決済した場合の損益(みなし決済損益)を計上
(BS科目:デリバティブ取引、PL科目:暗号資産売買等損益)
 ⇒翌月初又は翌期首に戻入

<ケース1:利益が出る場合の仕訳>
   (デリバティブ取引)×××  
        (暗号資産売買等損益)×××

<ケース2:損失が出る場合の仕訳>
   (暗号資産売買等損益)××× 
        (デリバティブ取引)×××
(暗号資産取引業における主要な経理処理例示Ⅲ2(4))
ステップ4のデリバティブ取引の決済についても、決済によって生じる損益を「暗号資産売買等損益」に計上します。

その「暗号資産売買等損益」の相手勘定として、利用者から受け入れている「受入保証金」又は「受入保証暗号資産」を増減させます。

同時に、証拠資産として計上していた「顧客分別金信託」又は「利用者暗号資産」を「暗号資産売買等損益」と同額、自己資産へ振り替えて増減させます。
【暗号資産のデリバティブ決済時】

決済によって生じる損益を「暗号資産売買等損益」に計上
 ⇒相手勘定で「受入保証金」又は「受入保
  証暗号資産」を増減

 ⇒同時に、「顧客分別金信託」又は「利用
  者暗号資産」を「暗号資産売買等損益」
  と同額自己資産へ振替


<ケース1:
利益が出る場合の仕訳(証拠金の場合)>

   (受入保証金)×××       (暗号資産売買等損益)×××
   (現金預金)×××          (顧客分別金信託)×××


<ケース2:
損失が出る場合の仕訳(証拠金の場合)>

   (暗号資産売買等損益)×××   (受入保証金)×××
   (顧客分別金信託)×××       (現金預金)×××


<ケース3:
利益が出る場合の仕訳(証拠仮想通貨の場合)>

   (受入保証暗号資産)×××
         (暗号資産売買等損益)×××
   (自己保有暗号資産)×××  (利用者暗号資産)×××  


<ケース4:
損失が出る場合の仕訳(証拠仮想通貨の場合)>

   (暗号資産売買等損益)××× 
         (受入保証暗号資産)×××
   (利用者暗号資産)×××   (自己保有暗号資産)×××
(暗号資産取引業における主要な経理処理例示Ⅲ2(3)イ)
下記では、仮想通貨交換業者が利用者との間でデリバティブ取引を行う場合の仕訳について、具体例を使用してご紹介します。(参考:暗号資産取引業における主要な経理処理例示Ⅲ2)
前提条件
仮想通貨交換業者であるA社は、下記のように利用者Bとの間で暗号資産のデリバティブ取引を行った。

・利用者BよりX1年4月1日に現金5千円を証拠金を受け入
 れた
・X1年4月1日に利用者BはA社との間で18カ月後の仮想通貨
 Xを100千円で1単位購入する先物取引を
 締結した
・X2年3月31日における仮想通貨Xの時価は1単位当り@95
 千円であった
・X2年10月31日に先物取引の決済を行った
・X2年10月31日における仮想通貨Xの時価は1単位当り
 @90千円であった
・A社の決算日は3月31日
【A社の会計処理】
① X1年4月1日(利用者Bからの証拠金受入時)
借方 貸方
現金預金 5千円※1
顧客分別金信託 5千円※1
受入保証金 5千円※1
現金預金 5千円※1
※1利用者Bからの入金額
利用者Bの入金額を現金預金に計上するとともに、受入保証金を負債として計上します。
現金預金に計上したものについては、顧客分別金信託に振替え、自己の資産とは区分して資産計上します。
② X1年4月1日(先物取引契約締結時)
会計処理は不要です。
③ X2年3月31日(期末日)
借方 貸方
デリバティブ取引 5千円※2 暗号資産売買等損益 5千円※2
※1先物売却価額100千円-期末仮想通貨X時価95千円
期末日時点で先物取引を決済した場合に発生する損益を暗号資産売買等損益として計上します。
④ X2年4月1日(翌期首)
借方 貸方
暗号資産売買等損益 5千円※2 デリバティブ取引 5千円※2
前期末に計上した暗号資産売買等損益を戻入ます。
⑤ X2年10月31日(決済時)
借方 貸方
受入保証金 10千円※3
現金預金 10千円※3
暗号資産売買等損益 10千円※3
顧客分別金信託 10千円※3
※3先物売却価額100千円-決済時仮想通貨X時価90千円
決済による利益を暗号資産売買等損益として計上し、相手勘定で受入保証金を減額します。
同時に、利益分の顧客分別金信託を自己資産である現金預金勘定に振替えます。
次のページでは、仮想通貨交換業者が利用者同士の仮想通貨のデリバティブ取引を仲介する場合の会計処理について具体的にご紹介します。