仮想通貨交換業者が他の仮想通貨交換業者に仮想通貨を売り付けた場合の会計処理

仮想通貨の売却損益は、仮想通貨の売買の合意が成立した時点、すなわち約定日基準で認識します。

日本における収益認識の基準としては、他にも引渡時に売却損益の認識を行う受渡日基準がありますが、仮想通貨に関しては、通常、売買の合意が成立した時点で価格変動リスクが買手に移るため、受渡日基準ではなく約定日基準が採用されています。
【仮想通貨売却取引損益認識時点】
仮想通貨の売買の合意が成立した時点
(資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取り扱い第13・52・53項)
また、仮想通貨の売却取引の損益は、売却収入から売却原価を控除した純額で、損益計算書に表示します。

日本における会計上の売却取引の表示方法としては、他にも売却収入と売却原価をそれぞれ表示する方法がありますが、仮想通貨の取引は、通常、売買差額を得ることを目的として、同一種類の資産の購入及び売却が反復的・短期的に行われることから、純額表示が採用されています。

活発な市場が存在しない仮想通貨については、反復的・短期的な取引にならないことが想定されますが、売買差益の獲得を目的としている点は、活発な市場が存在する仮想通貨と同様であることから、こちらについても純額表示が適用されます。
(資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取り扱い第16・59・60・61項)
【仮想通貨売却取引のPL表示方法】
売却収入から売却原価を控除した純額で表示
企業会計基準委員会が発行した『資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取り扱い』では、仮想通貨に関する暫定的な会計処理が定められていますが、仮想通貨交換業者が他の仮想通貨交換業者に仮想通貨を売り付けた場合の具体的な会計処理勘定科目については述べられていません。

そのため、その会計処理については、現状では既存の会計基準における他の資産の取り扱いから推測しなければなりません。

ただし、仮想通貨交換業者の会計処理については、暗号資産取引の浸透に伴う経理処理の必要性に応える形で、一般財団日本暗号資産取引業協会から『暗号資産取引業における主要な経理処理例示』が公表されており、こちらの会計処理を参照することができます。

具体的には、仮想通貨の売却による損益は営業収益の区分で、「暗号資産売買等損益」の勘定科目に計上するとされています。

売却の対価を他の仮想通貨交換業者への金銭の預け入れとする場合は、「預け金」の勘定科目で資産計上します。

預け金での決済でなく、翌日以降に売付代金を受け入れて決済する場合は、その受入日まで「約定見返勘定」で資産として計上します。
対象 区分&勘定科目

売却による損益

PL区分
⇒営業収益

勘定科目
⇒暗号資産売買等損益

売却対価

⓵預け金決済の場合
 ⇒預け金勘定として資産計上

②翌日以降の受入決済の場合
 ⇒約定見返勘定で資産計上
(資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取り扱い第22項
「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)」に対するコメント10
暗号資産取引業における主要な経理処理例示Ⅲ1(5)ロ)
また同様に、『資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取り扱い』では、仮想通貨売却時の売却原価の計算方法についても記載されていません。

現時点で確認できる法人における仮想通貨売却時の売却原価の計算方法を定めたものとしては、国税庁が公表した『仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)』があります。

ここでは、法人における仮想通貨の売却原価の計算方法は、総平均法又は移動平均法を選択適用するとし、選択しない場合は移動平均法を適用するとしています。

そのため、財務会計上でも、同じく総平均法又は移動平均法により売却原価を算定することが適切であると考えられます。
【仮想通貨の売却原価の計算方法】
総平均法又は移動平均法を選択適用
(仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)1・2
「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)」に対するコメント10)
下記では、仮想通貨交換業者が他の仮想通貨交換業者に仮想通貨を売り付けた場合の仕訳について、具体例を使用してご紹介します。(参考:仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)1・2
暗号資産取引業における主要な経理処理例示Ⅲ1(5)ロ)
前提条件
仮想通貨交換業者であるA社は仮想通貨取引業者であるB社との間で下記の取引を行った。

・A社はX1年4月1日にB社の口座で仮想通貨Xを1単位100千
 円で3単位購入した
・A社はX1年5月1日にB社の口座で仮想通貨Xを1単位200千
 円で、3単位追加購入した
・A社はX1年6月1日にB社に預け入れている仮想通貨Xを1単
 位300千円で、3単位B社に売却した
・A社はX1年6月1日の売却で得た金銭を、そのままB社に
 預け入れている
・A社は保有する仮想通貨Xは、常時全てB社に預け入れて
 いる
・A社の決算日は3月31日
【A社の会計処理】
① X1年4月1日(仮想通貨購入時)
借方 貸方
自己保有暗号資産
 (預け暗号資産) 300千円※1
現金預金 
        300千円※1
※1仮想通貨X1単位当り@100千円×3単位
仮想通貨購入にかかった支出を、自己保有暗号資産の中科目「預け暗号資産」の勘定科目で資産計上します。
② X1年5月1日(仮想通貨追加購入時)
借方 貸方
自己保有暗号資産
 (預け暗号資産) 600千円※2
現金預金 
       600千円※2
※2仮想通貨X1単位当り@200千円×3単位
仮想通貨追加購入にかかった支出を、自己保有暗号資産の中科目「預け暗号資産」の勘定科目で資産計上します。
この時点で、保有中の仮想通貨Xの帳簿価額は総額900千円、総数6単位、1単位当り@150円となります。
③ X1年6月1日(仮想通貨売却時)
借方 貸方
預け金 900千円※3
自己保有暗号資産
 (預け暗号資産) 450千円※4
暗号資産売買等損益 
        450千円※5
※3仮想通貨X1単位当り売却価額@300千円×3単位
※4売却時保有中仮想通貨X1単位当り売却原価@150千円
  ×3単位
※5仮想通貨X売却価額900千円-仮想通貨X売却原価450千円
売却した仮想通貨Xを、自己保有暗号資産の中科目「預け暗号資産」でマイナスすると同時に、B社への預け金を計上します。
仮想通貨Xの帳簿価額と売却価額の差額は、暗号資産売買等損益で収益計上します。
次のページでは、仮想通貨交換業者が保有している仮想通貨を他の仮想通貨交換業者が保有している他の仮想通貨と交換する場合の会計処理について具体的にご紹介します。