所有権移転ファイナンス・リース取引の会計処理(貸手/第1法)

貸手における所有権移転ファイナンス・リース取引は、その経済的実態からリース物件の割賦販売取引、又は、リース物件の購入資金の貸付取引と同等とみなされ、下記の3つの方法いずれかにより会計処理を行います。(企業会計基準第13号リース取引に関する会計基準13項
リース取引に関する会計基準の適用指針120・122項)
【貸手における所有権移転ファイナンス・リース取引の会計処理】

  第1法:リース取引開始日に売上高と売上原価
    を計上する方法

  第2法:リース料受取時に売上高と売上原価を
    計上する方法

  第3法:売上高を計上せずに利息相当額を各期
    へ配分する方法
第1法~第3法いずれの方法を採用したとしても、各会計期間に配分される利益の額は同一です。
所有権移転ファイナンス・リース取引貸手の会計処理の総論については下記のページをご参照ください。
所有権移転ファイナンス・リース取引の会計処理(貸手)
このページでは、所有権移転ファイナンス・リース取引貸手の会計処理の、第1法のリース取引開始日に売上高と売上原価を計上する方法について、具体例を使用してご紹介します。(参考:リース取引に関する会計基準の適用指針【設例1-2・2-2】)
前提条件
A社は物件Xを下記の条件でB社へリースする契約を締結しました。
・リース期間終了後に物件XをA社から1,000千円で購入でき
 る選択権があり、B社はこれを行使予定
・解約不能リース期間3年
・物件Xの購入価額は25,000千円
・リース料年額10,000千円(受取は1年ごとに後払),
 リース料総額30,000千円
・リース物件の経済的耐用年数5年
・リース取引開始日はX1年4月1日
・A社の決算日は3月31日
【現在価値基準による判定】
(貸手の計算利子率の算定)
10,000千円÷(1+r)+10,000千円÷(1+r)^2+10,000千円÷(1+r)^3++1,000千円÷(1+r)^3=25,000千円
r=11.38%

(リース料総額の現在価値)
10,000千円÷(1+0.1138)+10,000千円÷(1+0.1138)^2+10,000千円÷(1+0.1138)^3++1,000千円÷(1+0.1138)^3=25,000千円
リース料総額の割引現在価値25,000千円÷現金販売価額25,000千円=100%≧90%

【経済的耐用年数基準による判定】
リース期間3年÷経済的耐用年数5年=60%<75%

【リース取引の判定結果】
解約不能条件有のため、ノンキャンセラブルの要件を満たします。
経済的耐用年数基準では75%に満たないため要件を満たしませんが、現在価値基準が90%のためフルペイアウトの要件を満たします。
割安購入選択権があり、B社はこれを行使予定のため、所有権移転に該当します。
上記の判定結果により、当リース取引は所有権移転ファイナンス・リース取引に該当すると判定されます。
【A社の会計処理】
① X1年4月1日(リース取引開始日)
借方 貸方
リース債権 31,000千円※1
売上原価 25,000千円※2
売上高 31,000千円※1
買掛金 25,000千円※2
※1物割安購入価額を含むリース料総額
※2物件Xの購入価額
割安購入価額を含むリース料総額を売上高に計上するとともに、リース物件の購入価額を売上原価として計上します。これにより当該リース取引で発生するリース利益が一旦全額収益として計上されます。
② X2年3月31日(第1回リース料受取日&決算日)
借方 貸方
現金預金 10,000千円※3
繰延リース
利益繰入 3,155千円※4
リース債権 10,000千円※3

繰延リース利益 3,155千円※4
※3受取リース料
※4リース利益総額(31,000千円-25,000千円=6,000千円)の
  内翌期以降に帰属する金額(6,000千円-25,000千円
  ×11.38%)
受取リース料をリース債権の返済として計上します。リース利益総額6,000千円の内、当期に帰属する利息相当額以外の金額を繰延リース利益として翌期以降に繰り延べます。
③ X3年3月31日(第2回リース料受取日&決算日)
借方 貸方
現金預金 10,000千円※3

繰延リース利益 2,031千円※5
リース債権 10,000千円※3
繰延リース
利益戻入益 2,031千円※5
※3受取リース料
※5繰延リース利益の内、当期に帰属する金額((25,000千円-
  (10,000千円-25,000千円×11.38%))×11.38%)
第1回リース料受取日と同様の受取仕訳を計上するとともに、第1回決算日で繰延べたリース利益の内、当期に帰属する利息相当額を戻入れます。
④ X4年3月31日(第3回リース料受取日&決算日)
借方 貸方
現金預金 10,000千円※3

繰延リース利益 1,124千円※6
リース債権 10,000千円※3
繰延リース
利益戻入益 1,124千円※6
※3受取リース料
※6繰延リース利益の内、当期に帰属する金額((25,000千円-
  (10,000千円-25,000千円×11.38%)+(10,000
  千円-2,031
  千円))×11.38%)
第2回リース料受取日と同様の方法で仕訳を計上します。最終リース受取日の仕訳を計上すると、繰延リース利益残高はゼロになります。
⑤ X4年3月31日(割安購入権行使時)
借方 貸方
現金預金 1,000千円※7 リース債権 1,000千円※7
※7割安購入権行使価額
割安購入権の行使によりリース債権が完済され、リース取引が完了します。
次のページでは、所有権移転ファイナンス・リース取引貸手の会計処理の第2法について具体的にご紹介します。