販売を主たる事業としている企業がリースする場合の会計処理

Question
当社は通常、物件を販売することを主たる事業としている企業なのですが、同じ物件でリース取引をする場合の会計処理は、通常のリース取引の会計処理と異なるのでしょうか?
【Answer】
リース物件と同じ物件を販売することを主たる事業としている企業が、当該リース物件をリースする取引の場合、貸手において当該物件を現金販売する際の価格と販売益が存在するという点が、通常のリース取引と異なります。
そのため、ファイナンス・リース取引の判定の現在価値基準では『対象リース物件の合理的見積額』としては、リース物件の貸手における取得価額ではなく、借手にリース物件を販売するとした場合の現金販売価額が用いられます。(リース取引に関する会計基準の適用指針16項)
当該リース取引がファイナンス・リース取引と判定された場合、通常のリース取引では、リース取引開始時に、第1法では売上原価が、第2法と第3法ではリース債権又はリース投資資産が、貸手におけるリース物件の取得価額で計上されます。(リース取引に関する会計基準の適用指針51・61項)
それに対して今回のケースのように、販売することを主たる事業としている物件をリース取引の対象物件としている場合は、これらの計上額はリース物件の取得価額ではなくリース物件の借手に対する現金販売価額で行います。
リース物件の取得価額と借手に対する現金販売価額の差額は、販売益として計上ます。この販売益は、リース取引の受取利息相当額とは別に、販売基準又は割賦基準により収益認識されます。
ただし、販売益がリース料に占める割合に重要性が乏しい場合、又は、販売益を割賦基準により処理する場合は、受取利息相当額に含めて会計処理することが認められています。(リース取引に関する会計基準の適用指針56・66・128・129項)
以下では、所有権移転外ファイナンス・リース取引の貸手の第2法の会計処理を使用して、下記の3つのパターンの会計処理をご紹介します。

① 販売益を販売基準で計上するケース
② 販売益を割賦基準で計上するケース
③ 販売益に重要性が無い、又は割賦基準で処理して
 いる場合の簡便法 (参考:リース取引に関する会計基準の適用指針【設例8】)
前提条件
A社は物件Xを販売することを主たる事業としている企業です。
当該販売している物件Xを下記の条件でリースする取引をB社と締結しました。
・所有権移転条項無し
・割安購入選択権無し
・リース物件は特別仕様ではない
・解約不能リース期間3年
・貸手のリース物件の現金購入価額25,000千円
・借手に対する現金販売価額26,000千円
・リース料年額10,000千円(支払は1年ごと),
 リース料総額30,000千円
・リース物件の経済的耐用年数5年
・貸手の見積残存価額はゼロ
・リース取引開始日はX1年4月1日
・A社の決算日は3月31日
【現在価値基準による判定】
(1)貸手の計算利子率の算定
10,000千円÷(r+1)+10,000千円÷(r+1)^2++10,000千円÷(r+1)^3= 26,000千円
r=7.51%

(2)リース料総額の現在価値
10,000千円÷(1+0.0751)+10,000千円÷(1+0.0751)^2++10,000千円÷(1+0.0751)^3=26,000千円

リース料総額の割引現在価値26,000千円÷現金販売価額26,000千円=100%≧90%

【経済的耐用年数基準による判定】
リース期間3年÷経済的耐用年数5年=60%<75%

【リース取引の判定結果】
解約不能条件有のため、ノンキャンセラブルの要件を満たします。
経済的耐用年数基準では75%に満たないため要件を満たしませんが、現在価値基準が90%のためフルペイアウトの要件を満たします。
所有権移転条件、割安購入権なく、リース物件は特別仕様ではないため所有権移転外に該当します。
上記の判定結果により、当リース取引は所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当すると判定されます。
【貸手の会計処理】
パターン①:販売益を販売基準で計上する場合(第2法)
① X1年4月1日:リース取引開始日
借方 貸方
リース投資資産 26,000千円※1 買掛金 25,000千円※2
販売益 1,000千円※3
※1B社への現金販売価額(売価)
※2A社の現金購入価額(原価)
※3物件Xの販売益。
リース投資資産をリース物件のB社への現金販売価額で計上するとともに、物件Xの購入のための支出を買掛金で計上します。両の差額は販売益としてリース取引開始時に一括で収益として認識します。
② X2年3月31日:第1回リース料受取日&決算日
借方 貸方
現金預金 10,000千円※4
売上原価 8,047千円※5
売上高 10,000千円※4
リース投資資産 8,047千円※5
※4受取リース料総額
※5受取リース料総額10,000千円-利息相当額26,000千円
  ×7.51%
通常のリース取引と同様の会計処理を行います。
③ X 3年3月31日:第2回リース料受取日&決算日
借方 貸方
現金預金 10,000千円※4
売上原価 8,652千円※6
売上高 10,000千円※4
リース投資資産 8,652千円※6
※4受取リース料総額
※6受取リース料総額10,000千円-利息相当額(26,000
  千円-8,047千円)×7.51%
通常のリース取引と同様の会計処理を行います。
④ X 4年3月31日:最終回リース料受取日&決算日
借方 貸方
現金預金 10,000千円※4
売上原価 9,301千円※7
売上高 10,000千円※4
リース投資資産 9,301千円※7
※4受取リース料総額
※7受取リース料総額10,000千円-利息相当額(26,000
  千円-8,047千円-8,652千円)×7.51%
通常のリース取引と同様の会計処理を行います。
 
上記の会計処理を完了すると、リース投資資産残高はゼロとなりリース取引が完了します。
【貸手の会計処理】
パターン②:販売益を割賦基準で計上する場合(第2法)
① X1年4月1日:リース取引開始日
借方 貸方
リース投資資産 26,000千円※1 買掛金 25,000千円※2
繰延販売利益 1,000千円※3
※1B社への現金販売価額(売価)
※2A社の現金購入価額(原価)
※3物件Xの販売益
リース投資資産をリース物件のB社への現金販売価額で計上するとともに、物件Xの購入のための支出を買掛金で計上します。両の差額は繰延販売利益に計上します。
② X2年3月31日:第1回リース料受取日&決算日
借方 貸方
現金預金 10,000千円※4
売上原価 8,047千円※5
繰延販売利益 333千円※6
売上高 10,000千円※4
リース投資資産 8,047千円※5
販売益 333千円※6
※4受取リース料総額
※5受取リース料総額10,000千円-利息相当額26,000千円
  ×7.51%
※6繰延販売益の内、当期に帰属する部分:繰延販売益総額
  1,000千円÷3年×1年=333千円
受取リース料については通常のリース取引と同様の会計処理を行います。決算仕訳として、繰延販売益に計上した金額の内、当期に帰属する部分を販売益として戻入て、収益認識します。
③ X 3年3月31日:第2回リース料受取日&決算日
借方 貸方
現金預金 10,000千円※4
売上原価 8,652千円※7
繰延販売利益 333千円※8
売上高 10,000千円※4
リース投資資産 8,652千円※7
販売益 333千円※8
※4受取リース料総額
※7受取リース料総額10,000千円-利息相当額(26,000
  千円-8,047千円)×7.51%
※8繰延販売益の内、当期に帰属する部分:繰延販売益総額
  1,000千円÷3年×1年=333千円
第1回リース料受取日及び決算日と同様の会計処理を行います。
④ X 4年3月31日:最終回リース料受取日&決算日
借方 貸方
現金預金 10,000千円※4
売上原価 9,301千円※9
繰延販売利益 334千円※10
売上高 10,000千円※4
リース投資資産 9,301千円※9
販売益 334千円※10
※4受取リース料総額
※9受取リース料総額10,000千円-利息相当額(26,000
  千円-8,047千円-8,652千円)×7.51%
※10繰延販売益の内、当期に帰属する部分:繰延販売益総額
  1,000千円÷3年×1年=334千円
第1回リース料受取日及び決算日と同様の会計処理を行います。
 
上記の会計処理を完了すると、リース投資資産及び繰延販売益残高はゼロとなりリース取引が完了します。
【貸手の会計処理】
パターン③:販売益に重要性が無い又は割賦基準で処理する
      場合の簡便法(第2法)
① X1年4月1日:リース取引開始日
借方 貸方
リース投資資産 25,000千円※1 買掛金 25,000千円※1
※1貸手の物件Xの現金購入価額
リース投資資産をA社における物件Xの購入価額で計上します。そのため、物件Xの販売益は計上されません。
② X2年3月31日:第1回リース料受取日&決算日
借方 貸方
現金預金 10,000千円※2
売上原価 7,575千円※3
売上高 10,000千円※2
リース投資資産 7,575千円※3
※2受取リース料総額
※3受取リース料総額10,000千円-利息相当額25,000千円
  ×9.70%(販売益も含んだ利率)
※販売益も含んだ利率は下記の計算式で算定。
  10,000千円÷(1+r)+10,000千円÷(1+r)^2+10,000千円
  ÷(1+r)^3=25,000千円
  r=9.70%
貸手における計算利子率は、B社への物件Xの現金販売価額ではなく、A社の購入価額をベースに算定します。これにより、物件Xの販売益が受取利息に含まれて会計処理されることになります。
③ X 3年3月31日:第2回リース料受取日&決算日
借方 貸方
現金預金 10,000千円※2
売上原価 8.310千円※4
売上高 10,000千円※2
リース投資資産 8.310千円※4
※2受取リース料総額
※4受取リース料総額10,000千円-利息相当額(25,000
  千円-7,575千円)×9.70%
通常のリース取引と同様の会計処理を行います。
④ X 4年3月31日:最終回リース料受取日&決算日
借方 貸方
現金預金 10,000千円※2
売上原価 9,115千円※5
売上高 10,000千円※2
リース投資資産 9,115千円※5
※2受取リース料総額
※5受取リース料総額10,000千円-利息相当額(25,000
  千円-7,575千円-8,310千円)×9.70%
通常のリース取引と同様の会計処理を行います。
 
上記の会計処理を完了すると、リース投資資産残高はゼロとなりリース取引が完了します。
次ページでは、事前予告をもって解約できるリースの取り扱いについてご紹介します。