セール・アンド・リースバック取引の
会計処理(借手)

Question
所有する物件を貸手に売却し、貸手からリースを受ける場合の会計処理はどのようにしたらいいでしょうか?
【Answer】
所有する物件を貸手に売却し、貸手から当該物件のリースを受ける取引をセール・アンド・リースバック取引といいます。

所有していた固定資産は使用し続けることになりますので、当該取引の実態は、資金を借り入れて、リース料という形で借入金を分割返済する取引であるといえます。
セール・アンド・リースバック取引がファイナンス・リース取引に該当するかの判定は、基本的には通常のリース取引と同様です。

ただし、判定においてはリース物件が中古資産であるという前提がありますので、経済的耐用年数については、リースバック時におけるリース物件の性能、企画、陳腐化の状況等を考慮して見積もった経済的使用可能予測期間を用います。

また、リース物件の見積現金購入価額については、実際売却価額を用います。(リース取引に関する会計基準の適用指針48項)
セール・アンド・リースバック取引におけるリース取引がファイナンス・リース取引に該当する場合、借手は、リース物件の貸手への売却に伴う損益を長期間払費用又は長期前受収益等として繰延処理します。

繰延処理したものは、リース資産の減価償却費の割合に応じて減価償却費に加減して損益に計上します。
ただし、売却に伴う売却損失が、リース物件の合理的な見積もり市場価額が帳簿価額を下回ることにより生じたものであることが明らかな場合は、売却損を繰延処理せずに売却時の損失として計上します。(リース取引に関する会計基準の適用指針49項)
リース物件の売却損益の処理以外の会計処理は、通常のファイナンス・リース取引と同様です。(リース取引に関する会計基準の適用指針50項)
セール・アンド・リースバック取引におけるリース取引がオペレーティング・リース取引に該当した場合は、通常の売却取引と賃貸借取引として会計処理を行います。
以下では、具体例を使用してファイナンス・リース取引に該当する場合のセール・アンド・リースバック取引の借手の会計処理をご紹介します。(参考:リース取引に関する会計基準の適用指針【設例7-1】)
前提条件
B社は下記の条件で自己所有の物件Xを、A社に売却するとともにその全部をリースバックしました。
・所有権移転条項無し
・割安購入選択権無し
・当該物件は特別仕様では無い
・物件Xの取得価額は50,000千円、売却時帳簿価額は
 20,000千円
・売却価額は25,000千円
・リースバック取引開始日はX1年4月1日
・解約不能のリース期間3年
・リース料は年額10,000千円を後払い、
 リース料総額は30,000千円
・貸手の計算利子率は9.7%
・リースバック時以降の経済的耐用年数は5年
・借手の減価償却方法は定額法
・B社の決算日は3月31日
【現在価値基準による判定】
(リース料総額の現在価値)
10,000千円÷(1+0.097) +10,000千円÷(1+0.097) ^2+10,000千円÷(1+0.097) ^3=25,000千円
現在価値25,000千円÷実際売却価額25,000千円=100%≧90%

【経済的耐用年数基準による判定】
リース期間3年÷経済的耐用年数5年=60%<75%

【リース取引の判定結果】
解約不能条件有のため、ノンキャンセラブルの要件を満たします。

経済的耐用年数基準では75%に満たないため要件を満たしませんが、現在価値基準が90%のためフルペイアウトの要件を満たします。

所有権移転条件、割安購入権なく、リース物件は特別仕様ではないため所有権移転外に該当します。

上記の結果により、当リース取引は所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当すると判定されます。
【B社の会計処理】
① X1年4月1日:リース取引開始日
借方 貸方
減価償却累計額 30,000千円※1
現金預金 25,000千円※3
リース資産 25,000千円※3
有形固定資産 50,000千円※2
長期前受収益 5,000千円※4
リース債務 25,000千円※3
※1物件Xの取得価額50,000千円-売却時帳簿価額20,000千円
※2物件Xの取得価額
※3物件Xの売却価額
※4物件Xの売却価額25,000千円-対象資産の売却時帳簿価額
  20,000千円
リース取引開始時には、物件Xの売却の仕訳とリース資産・負債の計上を行います。物件Xの売却益は、全額長期前受収益に計上します。
② X2年3月31日:第1回リース料支払日&決算日
借方 貸方
リース債務 7,575千円※7
支払利息 2,425千円※6

長期前受収益 1,667千円※8
減価償却費 8,333千円※9
現金預金 10,000千円※5

減価償却費 1,667千円※8
減価償却累計額 8,333千円※8
※5支払リース料
※6支払リース料の内、利息相当額(25,000千円×9.7%)
※7支払リース料10,000千円から利息相当額2,425千円を控除
  した金額
※8長期前受収益5,000千円÷解約不能リース期間3年
※9リース資産計上額25,000千円÷解約不能リース期間3年
リース料の支払日には、支払リース料の内、利息相当額を支払リース料に計上し、残額をリース債務からマイナスします。
決算日には、物件Xの減価償却費を計上するとともに、長期前受収益の内、当期に帰属する部分を減価償却費のマイナスとして計上します。
長期前受収益は、毎期のリース資産の減価償却費の割合に応じて償却します。

上記の仕訳をリース料の最終支払日が帰属する会計期間の決算日迄継続すると、リース債務、リース物件の帳簿価額、及び長期前受収益がゼロになり、リース取引が完了します。
次のページでは、セール・アンド・リースバック取引の貸手の会計処理をご紹介します。