残価保証があるファイナンス・リース取引の
会計処理(借手)

Question
所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当するリース取引で、リース期間終了時のリース物件の処分価額が契約上取り決めた保証価額に満たない場合は、貸手へその不足額を支払う旨が契約上で定められています。このような場合の会計処理はどのようにしたらいいでしょうか?
【Answer】
リース期間終了時に、リース物件の処分価額が契約上取り決めた 保証価額に満たない場合に借手に対して、その不足額を貸手へ支払う義務が課せられることがあります。このような条件を、『残価保証』といいます。
所有権移転外ファイナンス・リース取引で残価保証がある場合、現在価値基準の判定並びにリース資産・債務の計上に使用する支払リース総額の割引現在価値、及び利息相当額の計算に使用する利子率の算定の際に、当該残価保証部分の金額を加算して会計処理します。(リース取引に関する会計基準の適用指針第15・17・22項)
また、リース物件の減価償却においては、残価保証は残存価額として取り扱い、減価償却費はリース資産から残価保証額を控除しそれを耐用年数で除する形で算定します。

ただし、これは残価保証額がリース期間終了時のリース物件の見積もり時価と大幅に乖離していないケースを想定しています。そのため、残価保証額がリース期間終了時のリース物件の見積もり時価と大幅に乖離しているような特殊なリース取引については、その実態を反映した会計処理を行う必要があります。(リース取引に関する会計基準の適用指針第27・113項)
リース期間の終了時において、残価保証額と実際のリース物件の価値に不足額がある場合は、不足額の確定時に当該不足額をリース資産売却損等として損失計上します。(リース取引に関する会計基準の適用指針第29項)
以下では、具体例を使用して、残価保証のあるファイナンス・リース取引の借手の会計処理をご紹介します。(参考:リース取引に関する会計基準の適用指針【設例3-1】)
前提条件
B社は物件Xを下記の条件でA社からリースする契約を締結しました。
・所有権移転条項無し
・割安購入選択権無し
・リース物件は特別仕様ではない
・リース期間終了時にB社がリース物件の処分価額を
 1,000千円まで保証する条項が付されている
・解約不能リース期間3年
・借手の見積り現金購入価額は25,000千円
・貸手のリース物件の購入価額は貸手において明らか
 ではない
・リース料年額10,000千円(支払は1年ごとに後払),
 リース料総額30,000千円
・リース物件の経済的耐用年数5年
・借手の減価償却方法は定額法
・借手の追加借入利子率は年8%
・借手は貸手の計算利子率を知り得ない
・リース取引開始日はX1年4月1日
・B社の決算日は3月31日
・リース取引終了時に物件Xは700千円で処分された
【現在価値基準による判定】
リース料総額の現在価値
10,000千円÷(1+0.08)+10,000千円÷(1+0.08)^2+10,000千円÷(1+0.08)^3+1,000千円÷(1+0.08)^3=26,565円
リース料総額の割引現在価値26,565千円÷現金販売価額25,000千円=106%≧90%

【経済的耐用年数基準による判定】
リース期間3年÷経済的耐用年数5年=60%<75%

【リース取引の判定結果】
解約不能条件有のため、ノンキャンセラブルの要件を満たします。

経済的耐用年数基準では75%に満たないため要件を満たしませんが、現在価値基準が90%のためフルペイアウトの要件を満たします。

所有権移転条件、割安購入権なく、リース物件は特別仕様ではないため所有権移転外に該当します。

上記の判定結果により、当リース取引は所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当すると判定されます。
【B社の会計処理】
① X1年4月1日(リース取引開始日)
借方 貸方
リース資産 25,000千円※1 リース債務 25,000千円※1
※1借手の見積現金購入価額
貸手の購入価額が明らかでないため、リース取引開始日のリース資産及びリース債務は借手の見積現金購入価額とリース総額の割引現在価値のいづれか低い金額で計上します。
② X2年3月31日(第1回リース料支払日)
借方 貸方
リース債務 7,155千円※4
支払利息 2,845千円※3
現金預金 10,000千円※2
※2支払リース料
※3支払リース料の内利息相当額。計算利子率は下記の計算
  で算定。
  10,000千円÷(1+r)+10,000千円÷(1+r)^2+10,000千円
  ÷(1+r)^3+1000千円÷(1+r)^3=25,000千円
  r=11.38%
※4支払リース料10,000千円-利息相当額2,845千円
借手の計算利子率を算定する際は、残価保証も将来キャッシュ・フローに含めたうえで割引率を算定します。それ以外の仕訳は通常のファイナンス・リース取引と同様です。
③ X2年3月31日(決算日)
借方 貸方
減価償却費 8,000千円※5 減価償却累計額 8,000千円※5
※5(リース資産計上額25,000千円-残価保証金額1,000千円)÷
  解約不能リース期間3年
残価保証は残存価額となるため、リース資産計上額から控除して減価償却費を算定します。
④ X3年3月31日(第2回リース料支払日)
借方 貸方
リース債務 7,969千円※7
支払利息 2,031千円※6
現金預金 10,000千円※2
※2支払リース料
※6期首リース債務残高(25,000千円‐7,155千円)×11.38%
※7支払リース料10,000千円-利息相当額2,031千円
第1回目の支払日と同様の会計処理を行います。
⑤ X3年3月31日(決算日)
借方 貸方
減価償却費 8,000千円※5 減価償却累計額 8,000千円※5
※5(リース資産計上額25,000千円-残価保証金額1,000千円)÷
  解約不能リース期間3年
第1回目の決算日と同様の会計処理を行います。
⑥ X4年3月31日(第3回リース料支払日)
借方 貸方
リース債務 8,876千円※9
支払利息 1,124千円※8
現金預金 10,000千円※2

※2支払リース料
※8期首リース債務残高(25,000千円‐7,155千円-7,969
  千円)×11.38%
※9支払リース料10,000千円-利息相当額1,124千円
第2回目の支払日と同様の会計処理を行います。
⑦ X4年3月31日(決算日)
借方 貸方
減価償却費 8,000千円※5 減価償却累計額 8,000千円※5
※5(リース資産計上額25,000千円-残価保証金額1,000千円)÷
  解約不能リース期間3年
第2回目の決算日と同様の会計処理を行います。
⑧ X4年3月31日(リース物件の処分時)
借方 貸方
減価償却
   累計額 24,000千円※10
リース債務 1,000千円※11
リース資産売却損 300千円※12

リース資産 25,000千円※10

未払金 300千円※12
※10物件Xの帳簿残高
※11リース債務の帳簿残高(=物件Xの残価保証額)
※12物件Xの残価保証額1,000千円と実際処分価額700千円
  の差額
リース物件の処分価額700千円と残価保証額1,000千円の差額を貸手に支払う義務が発生するため、リース資産売却損を計上するとともに、貸手に対する未払金を計上します。
上記の会計処理を終了すると、リース取引に係るBS残高は未払金300千円のみになり、この未払金を借手に支払うことでリース取引が完了します。
次のページでは、残価保証があるファイナンス・リース取引の貸手の会計処理をご紹介します。