資産除去債務額の算定方法

資産除去債務の計上額は、有形固定資産の除却に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価額)で算定します。(企業会計基準第18号
資産除去債務に関する会計基準6項)
この時使用する将来キャッシュ・フローには、法人税等の影響額は含みません。(資産除去債務に関する会計基準の適用指針4項)
割引前の将来キャッシュ・フローを見積もる際は、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて算定するとされています。
具体的には、次の(1)~(5)のような情報を基礎とし、それにインフレ率や見積値から乖離するリスク、技術革新などによる影響を反映したかたちで金額を算定します。(資産除去債務に関する会計基準の適用指針3項)

 (1)対象となる有形固定資産の除去に必要な平均的な
 処理作業に対する価格の見積り

 (2)対象となる有形固定資産を取得した際に、取引価額
 から控除された当該資産に係る除去費用の算定の基礎
 となった数値

 (3)過去に類似の資産について発生した除去費用の実績

 (4)当該有形固定資産への投資の意思決定を行う際に見積
 られた除去費用

 (5)有形固定資産の除去に係る用役を行う業者など第三者
 からの情報
      
上記のうち(2)について、有害物質等が含まれる固定資産を売買する場合、法令に基づき売り手に告知義務が課され、 売買金額から除去費用相当額が控除される場合があります。このような場合に、当該売買金額から控除された金額を、資産除去債務計上の基礎とすることができます。(資産除去債務に関する会計基準の適用指針20項)
有形固定資産の除去の方法やその金額にはいくつか選択肢があり、資産除去債務を計上するタイミングでは、どの選択肢が採用されるか未確定の場合がほとんどだと思います。
そのような場合は、選択肢の中で最も可能性が高い単一の金額を採用することも可能ですし、それぞれの選択肢の金額をその発生確率で加重平均した金額を使用することも認められています。(企業会計基準第18号
資産除去債務に関する会計基準6項(2))
下記では、資産除去債務の計上額の算定方法について、具体例を使用してご紹介します。(参考:資産除去債務に関する会計基準の適用指針〔設例2〕 )
前提条件
A社は、20X1年4月1日に土地Yについて10 年にわたる事業用定期借地権契約を締結した

・A社はその土地の上に採掘施設Xを建築した
・A社は10年後に施設を撤去し、採掘跡地を埋め戻して
 返却する契約となっている
・将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクは、
 個々の将来キャッシュ・フローの見積り
 に反映させる
・施設Xの解体等に係る労務費の割引前の将来キャッシュ・
 フローの見積金額には下記の期待値を使用
 する
 (将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクを
 反映済み)
発生
確率
インフレ率補正前予測
将来キャッシュ・フロー
期待値
35% 200千円 70千円
25% 500千円 125千円
40% 100千円 40千円
期待値 235千円

・解体業者が施設Xの解体にかける間接費及び設備費用を、
 労務費の50%と仮定する
・解体業者が稼得する利益は、労務費及び間接費等の合計額
 の20%であると仮定する
・過去に行った半分程度の規模の埋戻しに要した費用実績
 105千円に基づき、土地Yの埋戻しに係る
 費用を2倍の
 210千円と予測する
・埋戻しにも使用する予定の汎用的な工機の買替えを2年後
 に予定しているため、これによる削減
 効果、及び見積値
 から乖離するリスクを考慮して、最終の費用見込を
 200千円(インフレ率補正前)
 と見積る
・20X1年4月1日現在における利付国債(残存期間10年)
 の流通利回りは3%である
・10年間のインフレ率は年平均2%となると予測する
【20X1 年 4 月 1 日現在に当初認識される資産除去債務】
①施設X解体に係る労務費の期待値      235千円
②施設X解体に係る予測間接費等(235千円×50%)
                     118千円
③解体業者の利益加算((235千円+118千円)×20%)
                      71千円
④埋戻しに係る予測人件費及び予測間接費等  200千円
インフレ率補正前の将来キャッシュ・フロー※1 624千円
インフレ率補正後将来キャッシュ・フロー※2 761千円
割引現在価値※3              566千円
    
※1 ①~④合計
※2 624千円×(1.02)^10=761千円
 (10年間のインフレ率2%を加味)
※3 761千円/(1.03)^10=566千円
 (利付国債の利回り3%で割戻)
次のページでは、資産除去債務の履行時期の見積もり方法について、詳しくご紹介します。