資産除去債務の対象が複数の
有形固定資産により構成されている場合

Question
資産除去債務の対象が複数の有形固定資産により構成されている場合、どのように会計処理すべきでしょうか。
【Answer】
資産除去債務の対象が複数の有形固定資産から構成されている場合、個々の資産がそれぞれ個別に除去に係る法的義務等を有するのか有しないかにより会計処理が変わります。
個々の資産が除去に係る法的義務等を有する場合、その法律義務等を有する有形固定資産ごとに個別に資産除去債務を見積り、それぞれの有形固定資産ごとに資産除去債務の会計処理を行います。(資産除去債務に関する会計基準の適用指針25項)
それに対して、個々の資産では除去に係る法的義務を有さず、あくまでも複数の有形固定資産で構成された資産グループを除去する際にその法律義務等を有する場合、資産除去債務は当該資産グループで一括して見積り、その総額を資産グループの主たる資産の帳簿価格に加算します。
そのため、主たる資産以外の資産に係る除去費用についても、主たる資産の帳簿価格に計上され、その減価償却を通じて償却期間で費用配分されます。
ただし、この時に資産除去債務の計上の対象となる除去費用は、資産グループを除去する際に発生するものに限定されます。

すなわち、資産グループを構成する主たる資産以外の資産を全体の除去前に、より短い周期で除去して再び取得するような場合は、当該買替の際の除去費用は資産除去債務の対象とならず、発生時の費用として計上し、全体の除去と同時に実施する除去の費用のみが資産除去債務の対象となります。
これは、除去の法律義務等を有するのはあくまでも対象の資産グループの除去であり、当該除去費用については資産グループの使用期間(=主たる資産の償却期間)で費用配分するべきであるという考え方に基づきます。(資産除去債務に関する会計基準の適用指針6・24項)
以下では、資産除去債務の対象が複数の有形固定資産で構成されており、個々の資産ではその法律義務等を有さない場合の具体例をご説明します。(参考:資産除去債務に関する会計基準の適用指針〔設例3〕)
前提条件
A社は、20X1年4月1日に設備Xと設備Yを取得し、一体として使用を開始した。
・設備Xの取得価額は5,000千円
・設備Yの取得価額は1,000千円
・設備Xの耐用年数は3年
(残存価格ゼロで定額法により減価償却)
・設備Yの耐用年数は1年
(残存価格ゼロで定額法により減価償却)
・主たる資産は設備X
・設備Xと設備Yを一体として除去する際の支出は1,000千円
 と見積もられている
・A社には一体として使用している設備Xと設備Yを使用後に
 除去する法的義務がある
・設備Yを単体で除去する法的義務は存在しない
・A社の決算日は3月31日
 ※ここでは簡略化のため時間価値の考慮はしない
①20X1年4月1日:設備の取得と関連する資産除去債務を計上
借方 貸方
有形固定資産
    (設備X)6,000千円※1
有形固定資産
    (設備Y)1,000千円※2

現金預金6,000千円※3

資産除去債務1,000千円※4
※1設備Xの購入価額5,000千円+除去費用の見積額1,000千円
※2設備Yの購入価額
※3設備Xの購入価額5,000千円+設備Yの購入価額1,000千円
※4除去費用の見積額
設備Xと設備Yをそれぞれ資産として計上します。その際に、一体として除去する際の費用として見積もられてる1,000千円を全額、主たる資産である設備Xの帳簿価額に加算し、その相手勘定で資産除去債務を計上します。
②20X2年3月31日:減価償却費の計上
借方 貸方
減価償却費
    (設備X)2,000千円※5
減価償却費
    (設備Y)1,000千円※6
減価償却累計額
    (設備X)2,000千円※5
減価償却累計額
    (設備Y)1,000千円※6
※5設備X資産計上額6,000千円÷耐用年数3年
※6設備Y資産計上額1,000千円÷耐用年数1年
設備Xと設備Yをそれぞれに減価償却費と減価償却累計額を計上します。


追加前提条件
A社は、20X2年3月31日に設備Yの買替を行った。
・設備Yの除去費用として100千円支出した
・新しい設備Y(前回と同一の資産)を1,000千円で取得して
 使用を開始した
③20X2年3月31日:設備Yの買替(1回目)
借方 貸方
減価償却累計額
    (設備Y)1,000千円※7
固定資産除却損100千円※8
有形固定資産
    (設備Y)1,000千円※9
有形固定資産
    (設備Y)1,000千円※7
現金預金100千円※8

現金預金1,000千円※9
※7既存設備Yの帳簿価格
※8設備Yの除去費用
※9新規設備Yの取得価額
除去する設備Yの帳簿価額をマイナスし、除去費用については除去時の固定資産除却損として計上します。
新たに取得した設備Yについては、資産計上の仕訳を行います。
④20X3年3月31日:減価償却費の計上
借方 貸方
減価償却費
    (設備X)2,000千円※5
減価償却費
    (設備Y)1,000千円※6
減価償却累計額
    (設備X)2,000千円※5
減価償却累計額
    (設備Y)1,000千円※6
※5設備X資産計上額6,000千円÷耐用年数3年
※6設備Y資産計上額1,000千円÷耐用年数1年
前回の減価償却仕訳と同様の会計処理を行います。


追加前提条件
A社は、20X3年3月31日に設備Yの買替を行った。
・設備Yの除去費用として100千円支出した
・新しい設備Y(前回と同一の資産)を1,000千円で取得して
 使用を開始した
⑤20X3年3月31日:設備Yの買替(2回目)
借方 貸方
減価償却累計額
    (設備Y)1,000千円※7
固定資産除却損100千円※8
有形固定資産
    (設備Y)1,000千円※9
有形固定資産
    (設備Y)1,000千円※7
現金預金100千円※8

現金預金1,000千円※9
※7既存設備Yの帳簿価格
※8設備Yの除去費用
※9新規設備Yの取得価額
前回の買替と同様の会計処理を行います。
⑥20X4年3月31日:減価償却費の計上
借方 貸方
減価償却費
    (設備X)2,000千円※5
減価償却費
    (設備Y)1,000千円※6
減価償却累計額
    (設備X)2,000千円※5
減価償却累計額
    (設備Y)1,000千円※6
※5設備X資産計上額6,000千円÷耐用年数3年
※6設備Y資産計上額1,000千円÷耐用年数1年
前回の減価償却と同様の会計処理を行います。
追加前提条件
A社は、20X4年3月31日に一体として使用していた設備Xと設備Yを除去した。
・除去費用は1,000千円であった
⑦設備Xと設備Yの除去
借方 貸方
減価償却累計額
   (設備X)6,000千円※10
減価償却累計額
   (設備Y)1,000千円※11
資産除去債務1,000千円※12
有形固定資産
   (設備X)6,000千円※10
有形固定資産
   (設備Y)1,000千円※11
現金預金1,000千円※12
※10設備Xの帳簿価格
※11設備Yの帳簿価額
※12除去費用支出
設備X・設備Y共に、帳簿残高をマイナスします。除去費用については、資産除去債務と相殺し、実際発生額と差額がある場合は、除去時の損益として計上します。
次のページでは、多数の有形固定資産に同種の資産除去債務が生じている場合の会計処理をご紹介します。