将来キャッシュ・フローの見積りの変更

Question
資産除去債務を計上した後に、除去費用の見積もり額に変更があったのですが、この場合どのように会計処理をすればいいでしょうか?
【Answer】
割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積もりの変更が生じた場合、当該見積もりの変更による調整額を資産除去債務と関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理します。(企業会計基準第18号
資産除去債務に関する会計基準10項)
その際に当該調整額に用いる割引率は、見積りが増加した場合と減少した場合で異なります。
増加する場合には、その増加した時点の割引率を適用します。それに対して、減少する場合には、資産除去債務の計上当初の割引率を適用します。
ただし、一旦増加した資産除去債務が、再度減少した場合などは、減少部分に適用すべき割引率を特定できないため、当初計上時と増加時のものを加重平均した割引率を適用します。(企業会計基準第18号
資産除去債務に関する会計基準11項)
資産除去債務が法令の改正等により新たに発生した場合や、これまで合理的に見積もることが出来なかった資産除去債務の金額を合理的に見積もることが出来るようになった場合についても、割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積もりの変更が生じた場合と同様の会計処理を行います。(企業会計基準第18号
資産除去債務に関する会計基準5・10項)
以下では、割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積もりの変更が生じた場合の具体例をご説明します。(参考:資産除去債務に関する会計基準の適用指針〔設例5〕)
前提条件
A社は、20X1年4月1日に設備Xを5,000千円で取得し、
使用を開始した。
・設備Xの耐用年数は4年
(残存価格ゼロで定額法により減価償却)
・A社には設備Xを使用後に除去する法的義務がある
・A社の決算日は3月31日
・設備の除去に必要な将来キャッシュ・フローの見積額と
 割引率の推移は下記の通り
年月日 将来キャッシュ・フロー 割引率
20X1/4/1 4年後の見積額は1,000千円であった 5.0%
20X2/3/31 3年後の見積額は1,200千円に増加した 4.0%
20X3/3/31 2年後の見積額は800千円に減少した 4.8%
20X4/3/31 1年後の見積額は800千円で変更はない 4.6%
20X5/3/31 設備を除去し、除去費用800千円を支払 -
①20X1年4月1日:設備の取得と関連する資産除去債務を計上
借方 貸方
有形固定資産5,823千円※3 現金預金5,000千円※1
資産除去債務823千円※2
※1設備Xの購入価額
※2設備Xの将来除却時に見積もられる費用1,000千円
 ÷(1+0.05)^4
※3設備Xの購入価額5,000千円+資産除去債務計上額823千円
②20X2年3月31日:利息費用と減価償却費の計上
借方 貸方
利息費用41千円※4
減価償却費1,456千円※5
資産除去債務41千円※4
減価償却累計額1,456千円※5
※4資産除去債務残高823千円×割引率5.0%
※5 設備Aの取得価額5,823千円÷4年
④20X2年3月31日:将来キャッシュ・フロー見積額の増加による資産除去債務の調整
借方 貸方
有形固定資産178千円※6 資産除去債務178千円※6
※6将来キャッシュ・フロー見積額の増加200千円
  ÷(1+4.0%)^3
将来キャッシュ・フローが1,000千円から1,200千円に増加したため、3年後の資産除去債務が200千円増加するように、資産除去債務と有形固定資産を調整します。

200千円の割引現在価値を算定する際は、20X2年3月31日時点の割引率4.0%を用います。
⑤20X3年3月31日:利息費用と減価償却費の計上
借方 貸方
利息費用50千円※7
減価償却費1,515千円※8
資産除去債務50千円※7
減価償却累計額1,515千円※8
※7(823千円+41千円+178千円)×加重平均割引率4.8%
 【加重平均割引率=(1,000千円÷1,200千円)×5.0%+(200千円
  ÷1,200千円)×4.0%】
※8 5,823千円÷4年+178千円÷3年
利息費用を算定する際は、取得時に計上した資産除去債務と見積りの変更により増減した資産除去債務の加重平均割引率を資産除去債務残高合計に掛けて算定します。減価償却費は、取得時に固定資産計上した金額と、資産除去債務の見積りの変更により増減した金額を別々に算定し合算します。
⑥20X3年3月31日:将来キャッシュ・フロー見積額の減少による資産除去債務の調整
借方 貸方
資産除去債務364千円※10 有形固定資産364千円※10
※10最新の見積額800千円÷加重平均割引率(1+4.8%)^2
  -資産除去債務帳簿価格1,092千円=▲364千円
将来キャッシュ・フローが1,200千円から800千円に減少したため、2年後の資産除去債務残高が800千円となるように、資産除去債務と有形固定資産を調整します。

その際の割引現在価値を算定する際は、加重平均割引率の4.8%を使用します。
⑦20X4年3月31日:利息費用と減価償却費の計上
借方 貸方
利息費用35千円※11
減価償却費1,333千円※12
資産除去債務35千円※11
減価償却累計額1,333千円※12
※11(823千円+41千円+178千円+50千円-364千円)
  ×加重平均割引率4.8%
※12 5,823千円÷4年+178千円÷3年-減少額364千円÷2年
前回の決算日と同様の仕訳を計上します。減価償却費の算定の際には、見積りの変更により減少した固定資産分はマイナスして計算します。
⑧20X5年3月31日:利息費用と減価償却費の計上
借方 貸方
利息費用37千円※13
減価償却費1,333千円※12
資産除去債務37千円※13
減価償却累計額1,333千円※12
※12 5,823千円÷4年+178千円÷3年-減少額364千円÷2年
※13(823千円+41千円+178千円+50千円-364千円+35千円)
  ×加重平均割引率4.8%
前回の決算日と同様の仕訳を計上します。
⑨設備Aの除去
借方 貸方
減価償却累計額5,637千円
資産除去債務800千円
有形固定資産5,637千円
現金預金800千円
設備Xの有形固定資産と減価償却累計額を相殺します。除去費用については、現金支出の相手勘定で資産除去債務をマイナスします。
これにより、物件Xに関する資産除去債務の貸借対照表残高はゼロになり、会計処理が完了します。
次のページでは、資産除去債務の履行時期の見積りに変更がある際の会計処理をご紹介します。