市場販販売目的のソフトウェアの減価償却

無形固定資産に計上した市場販売目的のソフトウェアは、そのソフトウェアの性格に応じて、最も合理的と考えられる減価償却方法を採用すべきであるとされています。

合理的な方法としては、見込販売数量に基づき配分する方法及び、見込販売収益に基づき配分する方法があります。

販売が進むにつれて販売価格が下落する傾向のあるソフトウェアについては、販売が進むにつれて販売収益が著しく減少するため、費用・収益対応という観点から、見込販売収益に基づく減価償却方法を採用する方が合理的です。

それに対して、販売可能期間にわたって販売価格の変動が小さいソフトウェアについては、見込販売数量に基づく減価償却方法が適しているといえます。

また、製品の販売可能な期間にわたって価格が安定し、毎期ほぼ同数の販売量が見込まれるケースで、ソフトウェアの件数が多く減価償却の管理が煩雑になるようなケースにおいては、一定の販売可能な有効期間に基づく償却方法が認められる場合があります。
【市場販販売目的のソフトウェアの減価償却方法】
減価償却方法 特徴

見込販売収益に基づき配分する方法

販売が進むにつれて販売価格が下落すると予想される製品に適している

見込販売数量に基づき配分する方法

販売可能期間にわたって販売価格に変動が小さいと予想される製品に適している

一定の販売可能な有効期間に基づく償却方法

販売可能期間にわたって販売価格に変動が小さく、毎期ほぼ同数の販売量が見込まれ、取り扱いソフトウェアの数が多く見込み販売数量等に基づくと、減価償却の手続きが煩雑になるケースで認められる場合がある
ただし、いずれの減価償却方法であっても、毎期の償却額は、残存有効期間に基づく均等配分額を下回ることはできません。

したがって、毎期の減価償却費としては、見込販売数量等に基づく償却額と残存有効期間に基づく均等配分額とを比較して、いずれか大きい金額を計上することになります。

これには見込み販売数量等の将来の見積りが困難であることから、償却期間が長期化することを防止するという意図があります。
【各年度の減価償却費の判定】

下記の内、いずれか大きい金額が各年度の減価償却費となる。

①採用した減価償却方法で算定した減価償却費

②未償却残高を残存有効期間に基づいて均等配分した額
また、同様の理由から、販売可能な有効期間の見積りは、原則3年以内の年数とし、3年を超える年数とするときは、合理的な根拠が必要になります。
【利用可能期間を基礎として償却を行う場合の耐用年数】
原則/例外 耐用年数

原則

3年

例外

3年超の期間
※合理的な根拠が要求される
(研究開発費等に係る会計基準四の5
研究開発費に係る会計基準の設定に関する意見書三の3(4)
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針第18・42項
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A-Q21)
ソフトウェアの見込販売数量等の見積りは、様々な要因により影響を受けるため、見積り時点では最善の見積もりであっても、時の経過に伴う新たな要因の発生等により変動することが予想されます。

そのため、いずれの減価償却方法による場合も、毎期見込販売数量等の見直し・検討を行わなければなりません。

その結果、見込販売数量等の変更が必要になった場合には、それ以降の減価償却費の補正計算を行うことになります。
(研究開発費等に係る会計基準(注5)
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針
第19・43項)
また、見込販売数量等の見積りで減価償却を行っていく中で、当期末の未償却残高が翌期以降の見込販売収益の額を超過するケースが発生します。

市場販売目的のソフトウェアの経済価値は、将来の収益獲得に基づくものであるため、将来収益として回収できない部分の金額については資産として計上することはできません。

したがって、このような超過額は一時の費用又は損失として処理しなければなりません。
(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針
第44項
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A-Q22)
見込み販売数量等の変更の要因が、新たに入手可能となった情報に基づいている場合、当該見積りの変更の処理は、”会計上の見積りの変更”として取り扱われます。

それに対して、当該変更理由が過去に見積もった見込販売数量等がその時点での合理的な見積もりに基づくものでなかったというものであった場合、当該見積りの変更は、会計上”過去の誤謬の訂正”として取り扱われます。 (研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針
第19・22・43・46項
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A-Q22)
見込販売数量等の変更の要因 会計上の取り扱い

新たに入手可能となった情報に基づいている

会計上の見積もりの変更に該当

過去に見積もった見込販売数量等がその時点での合理的な見積もりに基づくものではない

過去の誤謬の訂正に該当
ソフトウェアの減価償却方法の変更は、会計方針の変更に該当します。ただし、過年度訴求会計基準第19項及び第20項並びに第62項において、無形固定資産の償却方法は会計方針と位置付けることとされているものの、その変更は会計方針の変更か会計上の見積もりの変更か区別することが困難な場合に外とするとされています。

そのため、会計上の見積りの変更と同様に会計処理を行い、その遡及適用を行う必要はないとされています。 (研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針
第22・46項)
市場販売目的のソフトウェアの当期の減価償却費については、全額当期の売上原価に計上し、期末の完成品や仕掛品が残っている場合であっても、それらの棚卸資産に負荷させることはありません。

製品マスターの償却費は、配分されるべき原価が確定しないため、減価償却はこのように当期に販売された商品のみが負担するという処理が採用されています。 (研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針
第35項
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A-Q14)
次のページでは、市場販販売目的のソフトウェアの減価償却の具体例(見込販売数量/見積りの変更無しのケース)をご紹介します。