市場販販売目的のソフトウェアの
製品マスターの改良・強化のための支出の会計処理

市場販売目的のソフトウェアの改良・強化のための支出は、著しい改良と認められない限り、製品マスターの取得原価として資産に計上しなければなりません。

市場販売目的のソフトウェアの改良・強化のための支出とは、製品マスターの制作費又は購入したソフトウェアの機能の改良・強化のための支出の内、研究開発費(最初に製品化された製品マスター完成まで、及び、著しい改良のための支出)と製品マスターの維持管理費用(バク取り等の費用)以外の支出を指します。

市場販売目的のソフトウェアの改良・強化のための支出の具体例としては、操作性向上のための支出、機能の追加などのための支出が挙げられます。

また、ソフトウェアのバージョンアップについても、既存の製品に機能を追加する、又は操作性を向上させるなど、それほど大幅ではないものについては、改良・強化のための支出に該当します。
【市場販売目的のソフトウェアの改良・強化のための支出の具体例】

●操作性向上のための改良

●機能の追加

※バージョンアップも、それほど大幅ではな
 いものについては、改良・強化のための
 支出に該当
(研究開発費等に係る会計基準四の2・(注3)
研究開発費に係る会計基準の設定に関する意見書三の3(3)
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針
第9・34項
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A
-Q11・12)
製品マスターは、①それ自体が販売の対象物ではなく、②機械装置等と同様にこれを利用(複写)して製品を作成すること、③法的権利(著作権)を有していること、及び④適正な原価計算により取得原価を明確化できることから、その取得原価は”ソフトウェア”などの勘定科目で無形固定資産として計上します。

製品マスターの制作仕掛品については、ソフトウェアの仮勘定などの勘定科目により、同じく無形固定資産として計上します。

なお、無形固定資産としての表示にあたっては、完成品と仕掛品を一括してソフトウェアなどの科目にすることができますが、制作仕掛品に重要性がある場合は、これを区分して表示することが望ましいとされています。
(研究開発費に係る会計基準の設定に関する意見書三の3(3)
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針
第10・35項
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A-Q14)
無形固定資産に計上した製品マスターの制作費は、減価償却を通じて費用化します。
製造原価の計算における、償却費と製品マスターの制作費の取り扱い方法としては、下記の3つが考えられますが、会計基準上では、(3)の方法が望ましいとされています。
番号 製品マスターの制作費 減価償却費

(1)

 製造費用に含めることなく直接、
 無形固定資産に計上

 ✖当期のソフトウェアの制作活動が製造費用の
 計算に反映されない


 製造費用に経費として計上


(2)

 製造費用に含め、製品マスターの制作仕掛品
 及び完成品を無形固定資産へ振り替えることに
 より製造費用から控除


 製造費用に経費として計上

 ✖ソフトウェアの制作原価が二重に製造費用に
 計上される


(3)

 製造費用に含め、製品マスターの制作仕掛品及び
 完成品を無形固定資産へ振り替えることにより
 製造費用から控除


 売上原価に直接参入
 (全額販売済みのソフトウェアに対応する金額
 とし、商品在庫及び仕掛品には配賦しない)

(1)の方法は、製品マスター制作に係るコストが当期製造費用に含まれないため、当期のソフトウェアの制作活動(研究開発活動以外)が製造費用の計算に反映されないという欠点があります。

(2)の方法は、製品マスターの制作費用と完成した製品マスターの償却費がどちらも当期製造費用に含まれてしまうため、二重に計上されるという点で不適です。

(3)の方法は、ソフトウェアの制作活動が製造費用の計算に適切に反映され、二重計上されることも防げるという点で望ましいとされています。
市場販売目的のソフトウェアはそれを複製して販売するため、製造費用の計算には、製品マスターの制作費と販売用の商品の製造費が両方登場します。

(3)の方法における、販売用商品及び製品マスターの制作費の具体的な会計処理の流れは下記のようになります。
【(3)の方法での製品マスターの制作費と販売用の商品の製造費の会計処理の流れ】

ステップ1:製品マスターの制作費と販売用の商品の製造費用を製造費用として計上する

ステップ2:完成した製品マスターの制作費を、当期製造費用から無形固定資産に振り替える

ステップ3:期末在庫として残っている販売用商品と商品の仕掛品の製造費用を棚卸資産に振り替える

ステップ4:期末製作途中の製品マスターの制作費を無形固定資産に振り替える

ステップ5:販売用商品のために使用している製品マスターの減価償却費を全額当期の売上原価に計上する
製品マスターの減価償却費については、全額販売したソフトウェアに対応するとして、当期の売上原価に計上し、期末の商品や仕掛品等の棚卸資産には配賦しません。

これは、製品マスターの償却費が、配分されるべき原価が確定しないという特性を持っているためです。
(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針
第35項
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A-Q14)
次のページでは、市場販販売目的のソフトウェアの減価償却について具体的にご紹介します。