自社利用目的のソフトウェアに係る支出の会計処理

自社利用のソフトウェアの取得・制作のための支出は、そのソフトウェアの利用により将来の収益又は費用削減が確実であるかどうかで、会計処理が異なります。
将来の収益又は費用削減が確実であると認められない場合、それが認められるようになるまでの活動は研究開発活動とみなされ、その活動に要する支出は全て研究開発費として発生時に費用処理します。
それに対して、将来の収益又は費用削減が確実であると認められる場合は、取得に要した支出を無形固定資産のソフトウェアの勘定科目で資産として計上します。
将来の収益又は費用削減が確実であると認められるかどうかは、ソフトウェアの取得形態ごとにその判断基準が異なり、具体的には下記の5つの取得形態が挙げられます。

自社利用のソフトウェア
の取得形態
将来の収益又は費用削減の
確実性
①自社で制作するケース 将来の収益獲得又は費用削減が確実である場合と確実でない場合がある

⇒実態に基づいて判断
 確実であるは無形固定資産として資産計上
 それ以外は究開発費で発生時費用処理
②自社で過去に制作したソフ
トウェアの仕様を大幅に変更して制作するケース
③市場で販売されているパッケージソフトウェアの仕様を大幅に変更して制作するケース
④外部から購入するケース 通常、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる

⇒無形固定資産として資産計上
⑤外部に制作を委託するケース
①自社で制作するケースと、②自社で過去に制作したソフトウェアの仕様を大幅に変更して制作するケースで発生する制作費は、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる場合を除いて研究開発費として発生時に費用計上します。
④外部から購入するケースと、⑤外部に制作を委託するケースは、通常、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められることから、取得に係る支出は資産計上します。
これに対して、③市場で販売されているパッケージソフトウェアの仕様を大幅に変更して制作するケースは、当該パッケージソフトウェアの購入価額も含めて、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる場合を除いて研究開発費として発生時に費用計上します。
③のソフトウェアは、パッケージソフトウェアを外部から購入するという点では④⑤と同様ですが、完成品を購入するというよりはパッケージソフトウェアを部品として利用していると考える方が適切であると考えられるため、パッケージソフトウェアの取得価額も含めて自社で制作するソフトウェアと同様の取り扱いを行います。
将来の収益獲得又は費用削減が認められるかどうかは、そのソフトウェアによりネット・キャッシュ・イン・フローがもたらされるかどうかに着目して判断します。
しかしながら、このようなケースとしての具体的な態様は多岐にわたると考えられることから、会計基準上は具体的な要件は定められていません。
ただし、資産計上される一般的なケースとして下記を例示しています。
【将来の収益獲得又は費用削減が認められ自社利用目的のソフトウェアの具体例】

●通信ソフトウェアの機能を第3者に提供して収益を得る場合

●在庫の手配・指示を手作業で行っているため、その工程がボトルネックになっており、手作業をコンピューターに
 置き換えることで効率化され販売数量の増加につながることが明確である場合

●遠隔保管システムの構築により、現場に派遣する保守要員が減少する場合
(研究開発費等に係る会計基準三・四の3
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針
第11・15・36・39項
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A-Q15)
また、ソフトウェアを無形固定資産として計上する場合、そのソフトウェアに関連する支出には、取得価額として固定資産計上するものと、ソフトウェアの維持管理費用として発生時の費用とするものに分けられます。

ソフトウェアの制作費又は購入費用については、取得のための支出であるため無形固定資産に計上します。

導入時において、外部購入したソフトウェアを自社仕様に修正するための支出や、初期設定作業のための支出は取得のための付随費用として原則、無形固定資産に計上します。

ただし、これらの導入費用は重要性が低い場合は、発生時の費用として処理することができます。

データのコンバート費用や、操作のトレーニング費用、バグ取り、ウィルス防止等の修繕・維持・保全のための費用については、発生時の費用として処理します。

さらに、ソフトウェアを有効利用するために環境を整備する費用を支出するケースがありますが、それらの費用は通常、ソフトウェアそのものの価値を高める性格のものではないため、原則として発生時の費用として処理します。ソフトウェアを購入する際に、このような費用が契約の金額に含まれている場合は、合理的な見積もりにより本体の購入費用とそれ以外の費用に区分して会計処理を行います。

また、機械装置等に組み込まれてるソフトウェアについては、当該機械装置等に含めて会計処理を行います。そのため、取得の対価として資産計上する金額については、機械装置等の取得価額に含めて固定資産計上します。

将来の収益獲得又は費用削減が確実でない場合と、確実である場合の支出の会計処理をまとめると、下記のようになります。
支出 確実でない 確実である

ソフトウェアの制作費用

研究開発費

無形固定資産

外部からのソフトウェア購入費用

研究開発費

無形固定資産

外部購入ソフトウェアの導入時の付随的な修正作業費用

研究開発費

無形固定資産
※重要性低い場合は費用処理可

外部購入ソフトウェアの導入時設定作業費用

研究開発費

無形固定資産
※重要性低い場合は費用処理可

データのコンバート費用

研究開発費

発生時費用

操作のトレーニング費用

研究開発費

発生時費用

ソフトウェアを有効利用するために環境を整備する費用

研究開発費

発生時費用

機械装置等に組み込まれているソフトウェア

研究開発費

有形固定資産
(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針
第14・16・38・40項)
自社利用のソフトウェアに係る資産計上の開始時点は、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認めれるようになった時点です。

したがって、将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められた時点から過去に遡って、ソフトウェアの取得価額を資産計上することは認められません。

将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認めれるようになった時点は、そのことを立証できる証憑に基づいて決定し、このような証憑の具体例としては、下記のようなものが挙げられます。
【将来の収益獲得又は費用削減が確実であることを立証する証憑】

●ソフトウェアの制作予算が承認された社内稟議書

●ソフトウェアの制作原価を集計するための製品番号を記入した管理台帳
(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針
第12・13・37項
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A-Q15)
次のページでは、自社利用目的のソフトウェアの減価償却について具体的にご紹介します。