販売用不動産の期末評価

Question
当社は不動産販売業を営んでおり、期末日時点で販売用の不動産を棚卸資産として複数保有しています。通常の販売目的で保有する棚卸資産については、期末日に正味売却価額との比較により、収益性の低下の判定と必要に応じた簿価の切り下げを行わなければならないということですが、不動産の場合は、正味売却価額はどのように見積もったらよいでしょか?
【Answer】
通常の販売目的で保有する棚卸資産は、期末日において正味売却価額での評価を行い、帳簿価額が正味外客価額を下回っている場合、正味売却価額まで簿価を切り下げる処理を行います。

販売用不動産についても、同様に期末における正味売却価額での評価を行います。販売用不動産における正味売却価額は、販売見込額から販売経費等の見込額を控除して算定します。
【販売用不動産等の正味売却価額】
販売用不動産の正味売却価額
=販売見込額-販売経費等見込額
(棚卸資産の評価に関する会計基準第7・36・37項
販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い第1・2(1)(2)項)
販売用不動産の対象となるものには、山林・田畑・雑種地等、宅地(除去予定の古屋があるものを含む)、新築住宅、新築ビルディング、中古住宅、中古ビルディングなどがあります。

このうち、一時的に賃貸を行っているものであっても、当初より販売を目的として取得したものであれば、販売用不動産に該当します。

販売見込額については、販売公表価格又は販売予定価格がある場合は、その販売公表価格又は販売予定価格を使用します。

ただし、これらの価格で販売できる見込みが乏しい場合は、販売可能見込額を使用します。

販売可能見込額としては、「不動産鑑定評価基準」に基づいて自社で算定した合理的な見積額、不動産鑑定士による鑑定評価額、公示価格、都道府県基準地価格から批准した価格、路線価による相続税評価額、固定資産税評価額を基にした倍率方式による相続税評価額、近隣の取引事例から比準した価格、収益還元価額などを使用することが考えられます。

具体的には、不動産の種類によって、下記のような評価額を使用するとされています。
不動産の種類 評価額(販売見込額)

山林・田畑・雑種地等

①「不動産鑑定評価基準」に
 基づいて算定した価額

②林地価額(都道府県基準地
 価額又は公示価額)から
 
 準した価額

③固定資産税評価額を基にし
 た倍率方式による相続税
 
 価額

④近隣の取引事例から比準し
 た価格

宅地(除去予定の古屋があるものを含む)

【販売公表価格・販売予定価格が使用できる場合】
①販売公表価格(パンフレッ
 ト価格、査定価格、
 チラシ
 広告価格等)

②販売予定価格(売出予定価
 格、引合価格等)


【販売公表価格・販売予定価格が使用できない場合】
①「不動産鑑定評価基準」に
 基づいて算定した価額

②公示価格から比準した価格

③都道府県基準価格から比準
 した価格

④路線価による相続税評価額

⑤固定資産税評価額を基にし
 た倍率方式による相続税
 
 価額

⑥近隣の取引事例から比準し
 た価格

⑦収益還元価額
 ※算定方法は不動産鑑定基準
 第7章第1節を参照

新築住宅

【販売公表価格・販売予定価格が使用できる場合】
①販売公表価格(パンフレッ
 ト価格、査定価格、
 チラシ
 広告価格等)

②販売予定価格(売出予定価
 格、引合価格等)


【販売公表価格・販売予定価
 格が使用できない場合】
①「不動産鑑定評価基準」に
 基づいて算定した価額

②土地及び建物の評価額
 ※土地の評価額は宅地の評
  価額を参照
 ※建物の評価額=再調達価
  格×(1-減価率)

③近隣の取引事例から比準し
 た価格

④収益還元価額
 ※算定方法は不動産鑑定基準
 第7章第1節を参照

中古住宅
(販売予定だが一時的に賃貸を行っているものも含む)

【販売予定価格が使用できる場合】
①販売予定価格(売出予定価
 格、引合価格等)


【販売公表価格・販売予定価格が使用できない場合】

①「不動産鑑定評価基準」に
 基づいて算定した価額

②土地及び建物の評価額
 ※土地の評価額は宅地の評
  価額を参照
 ※建物の評価額
  =再調達価格×(1-減価率)

③近隣の取引事例から比準し
 た価格

④収益還元価額
 ※算定方法は不動産鑑定基準
 第7章第1節を参照

新築ビルディング


①「不動産鑑定評価基準」に
 基づいて算定した価額

②土地及び建物の評価額
 ※土地の評価額は宅地の評
  価額を参照
 ※建物の評価額
  =再調達価格×(1-減価率)

③近隣の取引事例から比準し
 た価格

④収益還元価額
 ※算定方法は不動産鑑定基準
 第7章第1節を参照

中古ビルディング
(販売予定だが一時的に賃貸を行っているものも含む)


①「不動産鑑定評価基準」に
 基づいて算定した価額

②土地及び建物の評価額
 ※土地の評価額は宅地の評
  価額を参照
 ※建物の評価額
  =再調達価格×(1-減価率)
          又は、固定資産税評価額
          又は、建物時価

③近隣の取引事例から比準し
 た価格

④収益還元価額
 ※算定方法は不動産鑑定基準
 第7章第1節を参照
また、販売経費等の見込額としては、販売手数料、広告宣伝費、土壌汚染対策費等が挙げられます。
【販売経費等の見込額の具体例】
●販売手数料
●広告宣伝費
●土壌汚染対策費等
(販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い第2(3)(4)・3(1)項・付録1-1)
販売用不動産は個々の資産によりその性格が異なるため、正味売却価額は個別物件ごとに適切であると考えられる算定方法を選択して算定します
販売用不動産の期末評価の算定方法の選択単位=個々の資産ごと
そこで選択した算定方法は、評価のための前提条件に変更がない限り前年度と同一の方法を継続して適用しなければなりません。ただし、状況が変化していない場合であっても、より正確な評価額を得るために不動産鑑定士による過程を依頼した等、合理的な理由がある場合には、当該変更は妥当なものだと認められます。
【販売用不動産の期末評価の変更について】
原則:一度選択した方法を継続適用

例外:下記の場合は変更可能
   ①販売用不動産の状況が変化している
    場合
   ②より正確な評価額を求めるための
    変更である場合
(販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い第5(1)(2)項)
販売用不動産の評価に使用する正味売却価額は、原則としては他の通常の販売目的で保有する棚卸資産と同様に、期末における価額を用いらなければなりません。

ただし不動産の場合、販売可能見込額として使用する公示価格などの公表は年間1回であることなどから、厳密に期末日時点の評価額ではないものの、評価時点から価格に重要な変動を及ぼす要因が認められない場合は、公表時の価格を使用することが認められます。
【販売用不動産の評価時点】
原則:期末における評価額を使用
例外:評価時点から価格に重要な変動がない
   場合は、期末前の公示価格を使用可能
(販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い第5(3)項)
次のページでは、開発事業等支出金の期末評価について具体的にご紹介します。