令和元年7月7日以前に契約した長期平準定期保険の支払保険料の会計処理

現行の定期保険に関する規定は、令和元年に改正されたもので、その適用対象は令和元年7月8日以降の契約に限定されています。

そのため、令和元年7月7日までの保険契約については、旧基本通達での規定が適用されます。 【参考文献】
定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ-Q1
令和元年7月7日までの定期保険は、主に、『法人税基本通達9-3-5』と『「法人が支払う長期平準定期保険等の保険料の取扱いについて」の一部改正について』でその支払保険料の会計処理が規定されていました。

この規定では、定期保険は、被保険者の加入時及び満期時の年齢、及び保険期間経過に伴う保険金の増加の有無に基づき、長期平準定期保険、逓増定期保険とそれ以外に分類され、この分類ごとに、異なる会計処理が適用されます。

また、この規定は過去において数回改訂されていますが、改訂の内容は逓増定期保険に関するものであり、長期平準定期保険については、昭和62年の通達発遣後、令和元年の改正まで変更されていません。

さらに、平成20年2月28日の通達以前は、『契約時点』ではなく『保険料を支払った時点』の通達の規定が適用されるとされていたため、令和元年7月7日以前に契約を開始した長期平準定期保険については、全て、後述する会計処理が適用されます。 【参考文献】
「法人が支払う長期平準定期保険等の保険料の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)
山本英生(2019)『「通達」から読み解く保険税務/第2章4⃣【参考1】』税務研究会出版局
昭和55年12月25日直法2-15(例規)法人税基本通達等の一部改正について
定期保険に関する税制の改正履歴と、適用される支払保険料の会計処理の総まとめは、下記のページをご参照ください。
定期保険に関する税制の改正履歴と会計処理の総まとめ
【長期平準定期保険とは】

保険期間が長期間にわたる定期保険。
税法上では下記の条件を満たすものと定義されている。

 条件1:保険期間満了の時における被保険者の
    年齢が70歳超

 条件2:保険加入時の被保険者の年齢に保険期
    間の2倍に相当する数を加えた数が
    105を超える

 条件3:解約返戻金が支払われる

 条件4:下記の逓増定期保険に該当しない

   ■逓増定期保険に該当する条件
 (全てを満たすことが必要)
平成20年2月27日以前 平成20年2月28日以後
【条件1】
保険期間の経過により保険金額が5倍までの範囲で増加する

【条件2】
保険期間満了の時における被保険者の年齢が60歳超

【条件3】
保険加入時の被保険者の年齢に保険期間の2倍に相当する数を加えた数が90を超える
【条件1】
保険期間の経過により保険金額が5倍までの範囲で増加する

【条件2】
保険期間満了の時における被保険者の年齢が45歳超

※途中解約の際は解約返戻金を受取
 (簿外資産を形成できる)

※法人では経営者の万が一の場合に備えとし
 て利用

※貯蓄型でないため、保険料は割安

※第一分野保険に該当
長期平準定期保険は、保険期間(保障を受けられる期間)が「100歳まで」のように長期間にわたる定期保険です。

税法上では、定期保険の内、保険期間満了時の被保険者の年齢が70歳を超え、かつ、保険に加入した時の被保険者の年齢に保険期間の2倍に相当する数を加えた数が105を超えるものは、長期平準定期保険であると定義されています。

ここで、「保険に加入した時の被保険者の年齢」とは、保険契約証書に記載されている契約年齢をいい、「保険期間満了時の被保険者の年齢」とは、契約年齢に保険期間の年数を加えた数に相当する年齢をいいます。 【参考文献】
「法人が支払う長期平準定期保険等の保険料の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)
ただし、上記の定義に当てはまってるものの内、逓増定期保険の要件も満たすものについては、逓増定期保険の会計処理が適用されるため、長期平準定期保険の対象から除かれます。

逓増定期保険の定義は平成20年2月28日に一度、改正されており、その前後で要件が異なるため、契約を開始した年度に留意が必要です。 【参考文献】
「法人が支払う長期平準定期保険等の保険料の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)平成8年7月4日課法2-3・平成20年2月28日課法2-3
長期平準定期保険は、途中で解約すると「解約返戻金」を受け取れるのが一般的です。

そのため、支払保険料を通常の損金として会計処理すると、解約返戻金を簿外資産とすることができるため、長期平準定期保険の定義に該当する場合は、支払った保険料の一部を資産計上して、損金の期間帰属を調整しなければなりません。

なお、上記の長期平準定期保険の定義に当てはまっていたとしても、解約返戻金のない契約につては、長期平準定期保険の支払保険料の会計処理を適用する必要はなく、一般定期保険と同様、時の経過に応じて支払保険料を損金の額に算入する会計処理が適用されます。 【参考文献】
中村慈美・樋口翔太(2022)『企業の保険をめぐる税務/第5章1』一般財団法人大蔵財務協会
長期平準定期保険では、死亡・高度障害保険金額を1億円や2億円など高額に設定が可能であるため、法人においては経営者の万一の場合に備えて契約するケースが一般的です。

特に中小企業においては、経営者に万一のことがあると、取引先から契約を解除されたり、銀行から借入金の一括返済を求められたりする恐れがあるため、そのようなケースに備えることができます。

加えて、長期平準定期保険は貯蓄型ではないため、保険料は割安に設定されており、保険料負担を抑えながら長期間の保障を得ることができます。
長期平準定期保険は定期保険の一種であるため、保険業法における第一分野保険に該当します。保険業法における分野別保険分類についての詳細は、下記のページをご参照下さい。
保険の分野別分類 【参考文献】
保険業法第二・三条
山本英生(2019)『「通達」から読み解く保険税務/第2章2⃣(1)②』税務研究会出版局

【支払保険料の会計処理】




契約者 被保険者 保険金の
受取人
支払保険料の会計処理
法人 役員
使用人
法人 支払保険料の内、損金算入額のみを保険料等で損金計上。

支払額との差額は、前払保険料等に計上。
役員
使用人
(普遍的加入である)
役員
使用人
の遺族
支払保険料の内、損金算入額のみを福利厚生費等で損金計上。

支払額との差額は、前払費用等に計上。
役員
使用人
(普遍的加入でない)
役員
使用人
の遺族
被保険者の給与となる

※役員報酬の場合は定期同額給与
法人が自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者として、令和元年7月7日以前に契約した長期平準定期保険の保険料を支払った場合は、法人税上の規定に基づいて算定した損金算入額のみを損金計上し、支払額との差額は、前払保険料等の資産科目に計上することで、各期に計上される損金の額を調整します。
支払保険料を損金計上する際には、保険金又は給付金の受取人が法人である場合は、保険料等の科目を使用します。

それに対して、保険金又は給付金の受取人が被保険者の遺族である場合は、福利厚生費等の科目を使用します。
ただし、保険金又は給付金の受取人が被保険者の遺族である場合で、役員又は部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む。)のみを被保険者としている場合は、支払保険料は当該役員又は使用人に対する給与となり、前払の経過勘定を用いた『相当多額の前払部分の保険料』部分の期間帰属の調整を行う必要はありません。

このとき、被保険者が役員で、法人が負担する保険料が毎月おおむね一定である場合は、定期同額給与となります。

特定の役員または部課長その他特定の使用人のみを被保険者とした加入でないことを『普遍的加入』といいます。

普遍的加入の詳細な要件については、下記のページをご参照下さい。
保険契約における普遍的加入とは
【各期における保険料損金算入額】
期間 会計処理

【前払期間】
加入から保険期間の6割経過まで
※1年未満端数切捨

■損金計上額
支払保険料の1/2

■資産計上額
支払保険料の1/2

【取崩期間】
保険期間の6割経過後

■損金計上額
支払保険料全額
+前払期間経過時点資産計上
 額を取崩期間の経に応過
 
 て均等に取り崩した金額
令和元年7月7日以前に契約した長期平準定期保険に対する保険料を支払った場合は、加入から保険期間の6割期間(1年未満の端数が有る場合は切り捨て)については、支払保険料の1/2を損金として、残りの1/2を資産として計上します。

そして、加入から6割期間経過後に、支払保険料を全額損金計上するとともに、資産として計上した保険料を、後半4割期間で均等に戻入て損金に計上します。

ここでいう『支払保険料』は、当期に帰属する部分を指しています。

そのため、数年分の保険料をまとめて支払った場合などは、前払となる部分は上記に関係なく、前払として資産計上し、当期に帰属する『支払保険料』に対して、上記の会計処理を適用します。 【参考文献】
「法人が支払う長期平準定期保険等の保険料の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)
山本英生(2019)『「通達」から読み解く保険税務/第2章4⃣』税務研究会出版局
下記では、令和元年7月7日以前に契約した長期平準定期保険の支払保険料の会計処理を、具体例を使用してご紹介します。
前提条件
A社は従業員に対して、下記の条件で定期保険を契約した。
・保険期間は平成22年4月1日~令和12年3月31日の20年で
 ある
・毎年3月31日に1年分の保険料2,000千円を後払いする
・当該定期保険は長期平準定期保険に該当する
・保険金の受取人は法人である
【ケース1:保険金の受取人が法人】
① 平成23年3月31日(保険料支払時)
借方 貸方
保険料 1,000千円※2
前払保険料 1,000千円※3
現金預金 2,000千円※1
※1支払保険料
※2支払保険料2,000千円×1/2(損金計上分)
※3支払保険料2,000千円×1/2(資産計上分)
支払保険料は、1/2を損金として計上し、残りの1/2を前払保険料として資産計上します。
以降、保険期間の6割期間が終了する令和4年3月31日迄、同様の会計処理を行います。

② 令和5年3月31日(保険料支払時)
借方 貸方
保険料 2,000千円※1
保険料 1,500千円※4
現金預金 2,000千円※1
前払保険料 1,500千円※4
※1支払保険料
※4前払保険料累計額(1,000千円×12年)
  ÷6割期間経過後の期間8年
支払保険料を全額損金として計上すると同時に、前払保険料として計上してきた累計額を、6割経過後に残っている保険期間で均等に取り崩します。
以降、保険期間が終了する令和12年3月31日迄、同様の会計処理を行います。
【ケース2:保険金の受取人が被保険者の遺族かつ普遍的加入である】
① 平成23年3月31日(保険料支払時)
借方 貸方
福利厚生費 1,000千円※2
前払費用 1,000千円※3
現金預金 2,000千円※1
※1支払保険料
※2支払保険料2,000千円×1/2(損金計上分)
※3支払保険料2,000千円×1/2(資産計上分)
支払保険料は、1/2を損金として計上し、残りの1/2を前払費用として資産計上します。
以降、保険期間の6割期間が終了する令和4年3月31日迄、同様の会計処理を行います。

② 令和5年3月31日(保険料支払時)
借方 貸方
福利厚生費 2,000千円※1
福利厚生費 1,500千円※4
現金預金 2,000千円※1
前払費用 1,500千円※4
※1支払保険料
※4前払費用累計額(1,000千円×12年)
  ÷6割期間経過後の期間8年
支払保険料を全額損金として計上すると同時に、前払費用として計上してきた累計額を、6割経過後に残っている保険期間で均等に取り崩します。
以降、保険期間が終了する令和12年3月31日迄、同様の会計処理を行います。
【ケース3:保険金の受取人が被保険者の遺族かつ普遍的加入でない】
① 平成23年3月31日(保険料支払時)
借方 貸方
給与 2,000千円※1 現金預金 2,000千円※1
※1支払保険料
当期の保険料を、全額、給与として計上します。
以後、同様の会計処理を行います。
次のページでは、平成20年2月28日~令和元年7月7日までに契約した逓増定期保険の支払保険料の会計処理について具体的にご紹介します。