外貨建その他有価証券として保有している市場価額のある外貨建債権の会計処理

その他有価証券として保有している外貨建債権のうち、市場価額があるものは、原則として下記のように為替処理を行います。
換算のタイミング 会計処理

取得時

取得時の為替相場で資産計上

償却原価法における償却額計上時

期中平均相場で償却額を収益計上
※期中取得又は満期到来の
 ものであっても、
 期中平均
 相場を使用可

決算時

決算時の為替相場で換算替
⇒換算差額の会計処理は下記
 のいずれかによる

【原則】
換算差額は当期の評価損益として処理
(1)全部純資産直入法:
その他有価証券評価差額金

(2)部分純資産直入法:
①評価益の場合
          ⇒その他有価証券評価差額金
          ②評価損の場合
          ⇒投資有価証券評価損

【例外】
評価差額の内、外貨建時価の変動以外の部分については為替差損益に計上OK

期首時

洗替方式で前期末に計上した評価額は戻入

減損損失計上時

評価時の為替相場で換算替
⇒換算差額は当期の有価証券
 評価損として処理

売却時

売却時の為替差額は当期の有価証券売却損益に
含めて計上
ただし、”外国通貨による記録”を適用している外貨建取引については、上記の限りではなく、”外国通貨による記録”について定められている会計処理に従います。

”外国通貨による記録”の具体的な会計処理については、下記のページをご参照ください。
外国通貨による記録
多通貨会計とは
純粋多通貨会計と準多通貨会計
その他有価証券として保有している外貨建債権は、取得時には、取得時の為替相場で換算した価額で資産計上します。 (外貨建取引等会計処理基準一1)
その他有価証券に区分された債券に償却原価法を適用している場合、当期償却額は会計期間を通じて平均的に発生したものと考えられるため、外貨建償却額は期中平均相場で換算し、受取利息として収益計上するとともに、投資有価証券の帳簿価額に加算します。

この時、対象が期中に取得又は満期が到来した債券に係る償却額の場合、本来であればその保有期間の平均為替相場で換算すべきですが、実務上の煩雑性を考慮して、シンプルに期中平均相場で換算するとされています。 (外貨建取引等会計処理基準(注9)
外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第13項①・15・56項)
決算時においては、決算時の外貨建時価を決算時の為替相場で換算した金額で、資産計上している投資有価証券を評価替します。 (外貨建取引等会計処理基準一2(1)(c)ロ)
その他有価証券のうち市場価額のある外貨建債権は、金融商品に係る会計基準において時価評価を行うこととされているため、外貨建その他有価証券の決算時の換算替えにより発生した換算差額は、その円貨額による時価評価額を求める過程であると考えられます。

そのため、外貨建その他有価証券の決算時の換算替えにより発生した換算差額は、原則として為替差損益ではなく、金融商品に係る会計基準で定められている評価差額に適用される方法で会計処理します。

具体的には、原則法である全部資本直入法を適用している場合は、税効果会計を適用した上で全額『その他有価証券評価差額金』として純資産の部に計上ます。

例外法である部分資本直入法を適用している場合は、評価益が出ている場合は税効果会計を適用した上で『その他有価証券評価差額金』として純資産に計上し、評価損が出ている場合は『投資有価証券評価損』として損失計上します。

ただし、その他有価証券に属する債券については外貨建金銭債権債務の換算方法との整合性の観点から、例外として、原則法の評価差額の内、外国通貨による時価の変動に係る換算差額を評価差額とし、それ以外の換算差額については為替差損益として処理する方法が許容されています。

いずれの評価方法を採用しても、その他有価証券の評価額については洗替法が適用されるため、期末に計上した評価差額は翌期首に戻し入れます。(外貨建取引等会計処理基準一2(2)・(注10)
外貨建取引等会計処理基準の改訂に関する意見書二1(3)
外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第15・16・59項
金融商品に関する会計基準第18項)
会計基準では明文化されていませんが、外貨建その他有価証券の売却時に発生する換算差額についても、決算時の換算替による換算差額と同様の理由から、為替差損益ではなく有価証券の売却損益として処理します。
また、時価の著しい下落又は実質価額の著しい低下により評価額の引下げが求められる場合は、外貨建ての時価又は実質価額を決算時の為替相場により換算して評価額を算定し、評価差額は全額当期の有価証券評価損に計上します。この評価差額については、翌期首の戻入は行いません。

このような時価評価を行うには、時価又は実質価額が「著しく下落した」ことが認められることが必要です。

外貨建その他有価証券の場合、この「著しく下落した」かどうかは、外貨建ての時価又は実質価額と外貨建ての取得原価とを比較して判断します。

ただし、その他有価証券の内、外貨建債権だけは、外貨建時価の著しい下落は生じていなくても、急激な円高によりその円換算額が著しく下落するときは、外貨建ての時価を決算時の為替相場で換算した価額で評価替し、評価差額を当期の損失として計上することができます。(外貨建取引等会計処理基準一2(1)(c)ニ
外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第19・62項
金融商品会計基準第20・22項)
【外貨建その他有価証券のうち債権に対するクーポン利子の為替処理】

利息発生時
⇒発生時の為替相場で収益計上

未収利息
⇒外貨建未収収益に準じて会計処理
外貨建その他有価証券のうち債権に伴って発生する外貨建クーポン利息は、発生時の為替相場で換算した金額で有価証券利息として収益計上します。 (外貨建取引等会計処理基準一1)
期末のタイミングなどで未収利息が発生する場合の取扱いは、外貨建未収収益に方法に準して会計処理します。

外貨建未収収益の具体的な会計処理のページをご参照ください。
外貨建未収収益の会計処理
下記では、外貨建その他有価証券のうち債権の仕訳について、具体例を使用してご紹介します。
前提条件
A社は、取引先であるB社(海外上場会社)の社債(満期日X3年5月31日、クーポン利率年利6%、利払日毎年5月末)について、下記の取引を行った。
・X1年6月1日に額面100,000USDを95,200USDで取得した
・X1年6月1日のUSDの為替相場は1USD@100円であった
・取得価額と債券金額(額面)との差額は、全て金利の調整
 部分(金利調整差額)である
・償却原価法としては定額法を適用する
・B社社債の保有目的は取引先との関係強化であるため、
 その他有価証券に該当する
・X1年10月1日~X2年3月31日のUSDの期中平均為替相場は
 1USD@114円であった
・X2年3月31日のB社社債の時価は99,000USDであった
・X2年3月31日のUSDの為替相場は1USD@110円であった
・その他有有価証券の期末評価の会計処理は全部純資産直
 入法を採用している
・法定実効税率は40%である
・その他有有価証券に該当する債権の期末換算差額の
 会計処理は、原則法を適用している
・A社の決算日は3月31日
【A社の会計処理】
① X1年6月1日(取得時)
借方 貸方
投資有価証券 9,520千円※1 現金預金 9,520千円※1
※1外貨建取得価額95,200USD×取得時の為替相場@100円
外貨建取得価額に取得時の為替相場を掛けた金額で、投資有価証券を資産計上します。
② X2年3月31日(決算時)
借方 貸方
未収収益 550千円※2
投資有価証券 228千円※3
投資有価証券 1,142千円※4
有価証券利息 550千円※2
有価証券利息 228千円※3
その他有価証券評価差額金 
       698千円※5
繰延税金負債 457千円※6
※2額面金額100,000USD×クーポン利子率6%÷12カ月
  ×今期中保有月数10カ月×決算時為替相場@110円
※3(額面金額100,000USD-取得価額95,200USD)
  ÷取得から満期までの月数24カ月×今期中保有月数10カ月
  ×期中平均相場@114円
※4B債権決算時円建時価10,890千円(決算時時価99,000USD
  ×決算時為替相場@110円)
  -B債権円建帳簿価額9,748千円(取得価額9,520千円
  +償却額228千円)
※5B債権決算時有価証券評価差額合計1,142千円
  ×(1-実効税率40%)
※6B債権決算時有価証券評価差額合計1,142千円
  ×実効税率40%
期末時点で未収のクーポン利子について、期中平均相場で円換算した金額を未収収益に計上するとともに、相手勘定で有価証券利息を計上します。
償却額についても、期中平均相場で円換算した金額を有価証券利息として収益計上し、相手勘定で同額を投資有価証券として資産計上します。
投資有価証券については、期末の為替相場で換算した金額で評価替えし、換算差額は税効果を加味したうえで純資産に計上します。
次のページでは、外貨建その他有価証券として保有している時価の把握が極めて困難な有価証券の会計処理について具体例を使用してご紹介します。