外貨建その他有価証券として保有している外貨建転換社債の会計処理

その他有価証券として保有している外貨建転換社債は、原則として下記のように為替処理を行います。
換算のタイミング 会計処理

取得時

取得時の為替相場で資産計上

決算時

【時価の把握が可能な場合】
決算時の為替相場
×外貨建時価で評価替

【時価の把握が困難な場合】
決算時の為替相場
×外貨建簿価で評価替

⇒いずれのケースも
 換算差額の会計処理は下記
 
 いずれかによる

≪原則≫
換算差額は当期の評価損益として処理
(1)全部純資産直入法:
その他有価証券評価差額金
(2)部分純資産直入法:
①評価益の場合
          ⇒その他有価証券評価差額金
          ②評価損の場合
          ⇒投資有価証券評価損

≪例外≫
評価差額の内、外貨建時価の変動以外の部分については為替差損益に計上OK

期首時

洗替方式で前期末に計上した評価額は戻入

減損損失計上時

評価時の為替相場で換算替
⇒換算差額は当期の有価証券
 評価損として処理

転換時

転換時の円建帳簿価額を転換で取得した株式へ振替
ただし、”外国通貨による記録”を適用している外貨建取引については、上記の限りではなく、”外国通貨による記録”について定められている会計処理に従います。

”外国通貨による記録”の具体的な会計処理については、下記のページをご参照ください。
外国通貨による記録
多通貨会計とは
純粋多通貨会計と準多通貨会計
『転換社債』は、株式に転換できるオプションが付いた社債です。

その名称は、平成14年4月の商法改正で、現在では『転換社債型新株予約権付社債』に変更されています。

そのため、保有している外貨建転換社債の為替換算は、会計基準で定められてる外貨建転換社債型新株予約権付社債の会計処理に準じて行います。 (実務指針第4号外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第21項)
まず前提として、転換社債は社債の対価部分と新株予約権の対価部分とに区分しない『一括法』が適用されることを念頭に置いてください。

『一括法』が適用されるので、転換社債は取得から転換直前までは普通社債に準じて会計処理を行い、転換請求権を行使したときに、その価額を株式に振替えます。 (企業会計基準第10号金融商品に関する会計基準第37項
企業会計基準適用指針第17号払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理第20項)
具体的な為替処理としては、取得時には、取得時の為替相場で換算した価額で資産計上します。 (外貨建取引等会計処理基準一1
実務指針第4号外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第19-9項)
決算時には、原則として決算時の外貨建時価を決算時の為替相場で換算した価額で評価替します。 (外貨建取引等会計処理基準一2(1)(c)ロ
実務指針第4号外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第19-9・62-4項)
ただし保有している外貨建転換社債が、時価の把握が極めて困難な有価証券である場合は、取得時の外貨建価額を決算時の為替相場で換算した価額で評価替します。

円建て取引の場合、その他有価証券のうち、時価の把握が極めて困難な有価証券については、取得価額を貸借対照表価額とするとされているため、外貨建ての場合についても、取得時の外貨建価額を取得時の為替相場で換算した金額を帳簿価額とし続けるイメージがあるかもしれません。

しかしながら、その他有価証券は基本的にはその価格変動リスクを明示するために時価評価を行わなければならないものの、たまたま時価の把握が困難な場合については評価替えを行わなくてもよいとされているだけであるため、明確になっている為替相場の変動リスク部分については評価替えをおこなわなければならないという考え方で、このような取り扱いが採用されています。 (外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第58項)
その他有価証券は、金融商品に係る会計基準において時価評価を行うこととされているため、外貨建その他有価証券の決算時の換算替えにより発生した換算差額は、その円貨額による時価評価額を求める過程であると考えられます。

そのため、外貨建その他有価証券の決算時の換算替えにより発生した換算差額は、原則として為替差損益ではなく、金融商品に係る会計基準で定められている評価差額に適用される方法で会計処理します。

具体的には、原則法である全部資本直入法を適用している場合は、税効果会計を適用した上で全額『その他有価証券評価差額金』として純資産の部に計上ます。

例外法である部分資本直入法を適用している場合は、評価益が出ている場合は税効果会計を適用した上で『その他有価証券評価差額金』として純資産に計上し、評価損が出ている場合は『投資有価証券評価損』として損失計上します。

ただし、その他有価証券に属する債券については外貨建金銭債権債務の換算方法との整合性の観点から、例外として、原則法の評価差額の内、外国通貨による時価の変動に係る換算差額を評価差額とし、それ以外の換算差額については為替差損益として処理する方法が許容されています。

いずれの評価方法を採用しても、その他有価証券の評価額については洗替法が適用されるため、期末に計上した評価差額は翌期首に戻し入れます。 (外貨建取引等会計処理基準一2(2)・(注10)
外貨建取引等会計処理基準の改訂に関する意見書二1(3)
外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第15・16・59項
金融商品に関する会計基準第18項)
会計基準では明文化されていませんが、外貨建その他有価証券の売却時に発生する換算差額についても、決算時の換算替による換算差額と同様の理由から、為替差損益ではなく有価証券の売却損益として処理します。
また、時価の著しい下落又は実質価額の著しい低下により評価額の引下げが求められる場合は、外貨建ての時価又は実質価額を決算時の為替相場により換算して評価額を算定し、評価差額は全額当期の有価証券評価損に計上します。この評価差額については、翌期首の戻入は行いません。

このような時価評価を行うには、時価又は実質価額が「著しく下落した」ことが認められることが必要です。

外貨建その他有価証券の場合、この「著しく下落した」かどうかは、外貨建ての時価又は実質価額と外貨建ての取得原価とを比較して判断します。

ただし、その他有価証券の内、外貨建債権だけは、外貨建時価の著しい下落は生じていなくても、急激な円高によりその円換算額が著しく下落するときは、外貨建ての時価を決算時の為替相場で換算した価額で評価替し、評価差額を当期の損失として計上することができます。(外貨建取引等会計処理基準一2(1)(c)ニ
外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第18・19・61・62項
金融商品会計基準第20・22項)
転換時には、取得時の外貨建時価を取得時の為替相場で換算した価額で、転換により取得した株式に振替えます。 (外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第19-9項)
外貨建転換社債は通常、転換条件として1株当りの円価額と換算レートが設定されており、転換請求時に発行される株式数は下記の計算式で算定します。
【転換請求時の発行株式数の算定】

転換請求時発行株式数
=権利行使された外貨建転換社債価額
 ×転換条件の換算レート
 ÷転換条件の1株当り円価額
転換請求により取得した株式については、その保有目的に応じて会計処理します。 (外貨建取引等の会計処理に関する実務指針設例8)
下記では、外貨建転換社債をその他有価証券として保有している場合の仕訳について、具体例を使用してご紹介します。 (参考:外貨建取引等の会計処理に関する実務指針設例6)
前提条件
A社は、下記のように外貨建転換社債の取引を行った。
・X1年6月1日にB社の外貨建転換社債を額面100,000USDで
 取得した
・X1年6月1日のUSDの為替相場は1USD@100円であった
・転換条件は1株1,000円、換算(固定)レートは110円
・A社はB社外貨建転換社債をその他有価証券に区分した
・X2年3月31日のB社外貨建転換社債の時価は98,000USDで
 あった
・X2年3月31日のUSDの為替相場は1USD@110円であった
・X2年5月31日に全額転換し、B株を取得し
 売買目的有価証券として計上した
・X2年5月31日のB社外貨建転換社債の時価は99,000USDで
 あった
・X2年5月31日のUSDの為替相場は1USD@105円であった
・A社はその他有価証券の評価差額の会計処理は
 全部資本直入法適用している
・A社の実効税率は40%である
・A社の決算日は3月31日
【A社の会計処理】
① X1年6月1日(取得時)
借方 貸方
投資有価証券 10,000千円※1 現金預金 10,000千円※1
※1外貨建取得価額100,000USD×取得時の為替相場@100円
取得価額に取得時の為替相場を掛けた金額で、投資有価証券を計上します。
② X2年3月31日(決算時)
借方 貸方
投資有価証券 780千円※2 その他有価証券評価差額金 
       468千円※2
繰延税金負債 
       312千円※3
※2(決算時の為替相場@110円×決算時外貨時価98,000USD
  -決算時の有価証券の円建帳簿価額10,000千円)
  
  ×(1-実効税率40%)
※3(決算時の為替相場@110円××決算時外貨時価98,000USD
  -決算時の有価証券の円建帳簿価額10,000千円)
  
  ×実効税率40%
決算時の外貨建帳簿価額を決算時の為替相場で換算した金額で評価替します。評価替えによって発生した差額はドル建て時価の変動による差額とともに、税効果を加味したうえでその他有価証券評価差額金として計上します。
③X2年4月1日(期首時)
借方 貸方
その他有価証券評価差額金 
       468千円※2
繰延税金負債 
       312千円※3
投資有価証券 780千円※2
※2(決算時の為替相場@110円
  ×決算時の新活予約券付社債時価98,000USD
  
  -決算時の有価証券の円建帳簿価額10,000千円)
  ×(1-実効税率40%)
※3(決算時の為替相場@110円
  ×決算時の新活予約券付社債時価98,000USD
  
  -決算時の有価証券の円建帳簿価額10,000千円)
  ×実効税率40%
前期末に計上した評価差額について、洗替処理を行います。
④ X2年5月31日(転換時)
借方 貸方
有価証券 10,000千円※1 投資有価証券 10,000千円※1
※1外貨建取得価額100,000USD×取得時の為替相場@100円
転換時には、外貨建転換社債の取得時の円建て価額を、転換により取得したB株式へ振り替えます。

このとき、転換により取得する株式数は、下記のように算定されます。
取得株式数
=外貨建額面100,000USD
 ×換算(固定)レート@110円
 ÷転換条件1株@1,000円
 =11,000株
転換により取得した株式は、その保有目的から売買目的有価証券とされたため、『有価証券』の勘定科目を使用して資産計上し、取得後も売買目的有価証券の会計処理を適用します。
次のページでは、外貨建その他有価証券として保有している外貨建転換社債型新株予約権付社債の会計処理について具体例を使用してご紹介します。