外貨建その他有価証券として保有している外貨建新株予約権の会計処理

その他有価証券として保有している外貨建新株予約権は、原則として下記のように為替換算の会計処理を行います。
換算のタイミング 会計処理

取得時

取得時の為替相場で資産計上

決算時

【時価の把握が可能な場合】
決算時の為替相場
×外貨建時価で評価替

【時価の把握が困難な場合】
決算時の為替相場
×外貨建簿価で評価替

⇒いずれのケースも換算差額は下記どちらかの方法で
 当期の評価損益として処理
(1)全部純資産直入法:
その他有価証券評価差額金
(2)部分純資産直入法:
①評価益の場合
          ⇒その他有価証券評価差額金
          ②評価損の場合
          ⇒投資有価証券評価損

期首時

洗替方式で前期末に計上した評価額は戻入

減損損失計上時

評価時の為替相場で換算替
⇒換算差額は当期の有価証券
 評価損として処理

権利行使時

新株予約権部分の円建帳簿価額を、新株の払込金とともに取得した株式へ振替
ただし、”外国通貨による記録”を適用している外貨建取引については、上記の限りではなく、”外国通貨による記録”について定められている会計処理に従います。

”外国通貨による記録”の具体的な会計処理については、下記のページをご参照ください。
外国通貨による記録
多通貨会計とは
純粋多通貨会計と準多通貨会計
その他有価証券として保有している外貨建新株予約権は、取得時には、取得時の為替相場で換算した価額で資産計上します。 (外貨建取引等会計処理基準一1
実務指針第4号外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第19-4項)
そして決算時には、原則として決算時の外貨建時価を決算時の為替相場で換算した価額で評価替します。

ただし、時価の把握が極めて困難な場合は、決算時の外貨建帳簿に決算時の為替相場を掛けた金額を、期末評価額とすることができます。 (外貨建取引等会計処理基準一2(1)(c)ロ
実務指針第4号外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第19-5・58項)
外貨建その他有価証券は、金融商品に係る会計基準において時価評価を行うとされているため、その他有価証券として保有している外貨建新株予約権の決算時の換算替えにより発生した換算差額は、その円貨額による時価評価額を求める過程で生じたと考えられます。

そのため、その他有価証券として保有している外貨建新株予約権の決算時の換算替えにより発生した換算差額は、為替差損益としてではなく、金融商品に係る会計基準で定められている評価差額に関する処理方法によって会計処理するとされています。

具体的には、原則法である全部資本直入法を適用している場合は、税効果会計を適用した上で全額『その他有価証券評価差額金』として純資産の部に計上し、例外法である部分資本直入法を適用している場合は、評価益が出ている場合は税効果会計を適用した上で『その他有価証券評価差額金』として純資産の部へ、評価損が出ている場合は『投資有価証券評価損』として損失計上します。

その他有価証券の評価額については洗替法が適用されるため、期末に計上した評価差額については翌期首に処理を行います。

会計基準では明文化されていませんが、外貨建その他有価証券の売却時に発生する換算差額についても、決算時の換算替による換算差額と同様の理由から、為替差損益ではなく有価証券の売却損益として処理します。 (外貨建取引等会計処理基準一2(2)
外貨建取引等会計処理基準の改訂に関する意見書二1(3)
外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第15・16・19-5・58・59項
金融商品に関する会計基準第18項)
時価の著しい下落又は実質価額の著しい低下により評価額の引下げが求められる場合は、外貨建ての時価又は実質価額を決算時の為替相場により換算して評価額を算定し、評価差額は全額当期の有価証券評価損に計上します。この評価差額については、翌期首の戻入は行いません。

このような時価評価を行うには、時価又は実質価額が「著しく下落した」ことが認められることが必要です。

外貨建その他有価証券の場合、この「著しく下落した」かどうかは、外貨建ての時価又は実質価額と外貨建ての取得原価とを比較して判断します。(外貨建取引等会計処理基準一2(1)(c)ニ
外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第18・19・61・62項
金融商品会計基準第20・22項)
また、その権利行使時には、取得時の外貨建価額を取得時の為替相場で換算した新株予約権の価額を、権利行使時の払込金額とともに、権利行使により取得した株式として資産計上します。 (外貨建取引等の会計処理に関する実務指針第19-5項)
下記ではその他有価証券として保有している外貨建新株予約権の仕訳について、具体例を使用してご紹介します。
前提条件
A社は、下記のように取引先である海外企業B社が発行している新株予約権の取引を行った。
・X1年6月1日に総額100,000USDのB社新株予約券を
 取得した
・X1年6月1日のUSDの為替相場は1USD@100円であった
・B社新株予約券についてはその他有価証券に該当する
・X2年3月31日のUSDの為替相場は1USD@110円、
 B社新株予約権の時価は90,000USDであった
・X2年5月31日に保有している新株予約権を全て権利
 行使し、1,000,000USDの払込を行った
・新株予約権の権利行使により取得したB社株式は、
 その他有価証券として保有する
・X2年5月31日のUSDの為替相場は1USD@105円、
 B社新株予約権の時価は95,000USDであった
・その他有価証券の評価差額については全部資本直入法を
 採用している
・法定実効税率は40%である
・A社の決算日は3月31日
【A社の会計処理】
① X1年6月1日(取得時)
借方 貸方
投資有価証券 10,000千円※1 現金預金 10,000千円※1
※1外貨建取得価額100,000USD×取得時の為替相場@100円
外貨建取得価額に発行時の為替相場を掛けた金額で、新株予約権を資産計上します。
② X2年3月31日(決算時)
借方 貸方
その他有価証券評価差額金         60千円※4
繰延税金資産 40千円※3
投資有価証券 100千円※2
※2決算時外貨建時価90,000USD×決算時の為替相場@110円
  -B社新株予約権帳簿価額10,000千円
※3期末評価差額100千円×法定実効税率40%
※4期末評価差額100千円×(1-法定実効税率40%)
決算時の外貨建時価に決算時の為替相場を掛けた金額で、新株予約権を評価替し、評価差額については税効果を加味したうえで、その他有価証券評価差額金として計上します。
③ X2年4月1日(期首時)
借方 貸方
投資有価証券 100千円※2 その他有価証券評価差額金        60千円※4
繰延税金資産 40千円※3
前期末に計上した評価差額の戻入を行います。
④ X2年5月31日(権利行使時)
借方 貸方
投資有価証券 115,000千円※7 投資有価証券 10,000千円※5
現金預金 105,000千円※6
※5新株予約権の帳簿価額
※6権利行使時払込価額1,000,000USD
  ×権利行使時の為替相場@105円
※7権利行使時B新株予約権円建時価10,000千円
  +払込価額105,000千円
権利行使時の新株予約権の帳簿価額と権利行使に伴う払込金額の合計額を取得したB社株式として投資有価証券に計上します。
次のページでは、外貨建満期保有目的の外貨建債券の会計処理について具体例を使用してご紹介します。